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タ ス マ ニ ア 島

  • 前回までが2005年12月に訪れたシドニーでの牡蠣養殖事情である。これからは2009年10月に訪問したタスマニア島についてお伝えしたい。タスマニアのホバートに行くため、成田空港からシドニーのキングスフォード・スミス国際空港で乗り換えするのであるが、パックはいったん全部オーストラリア国内への持ち込みとしてチェックを受ける。
  • 特に食べ物は厳しいので、申告書の食べ物所有欄に印をつけ、それを税関に渡し「梅干し・プラム」と伝えると、バックをレントゲン装置に入れるが、無事通過する。梅干しは朝のお茶飲む際の必需品だから、どこの国へ行く時も持参している。次に、ターミナル1から国内線の3に乗り換えるのが大変だった。カンタス航空のカウンターが大混雑である。手続きカウンター窓口は5か所ほどあるが、人が大勢居すぎる。ようやく終えてバスでターミナル3へ向かい、ようやくホバート行きに乗るが、機内はほぼ満員で、二時間で着く。
  • 到着したホバート空港、ここでも食べ物検査官が立っていて、眼を光らせている。厳しいのだ。さて、バックを取り、タクシーで市内ホテルまでの20分17キロ、運転手の物腰は柔らかく、途中の風景、山も草原も家並みもすべて穏やかで好感が持てる。今年は雨が多かったせいで、牧草地の草がとてもきれいだと地元の人がいう。
  • タスマニア島の面積は68331k㎡。北海道の80%。人口約49万人。州都はホバートで人口20万人。タスマニアは全島の37%が国立公園や自然保護区になっていて、全土は豊かな多雨林の森に覆われている。その大部分は世界遺産。リンゴもでき、そば粉もでき、日本へ輸出している。タスマニア島の気候は夏でも30度超さず、冬でもマイナスになることは稀で平均8度くらい。南極に一番近い町で台風・地震なしで、化学工場などは一切ない。快適な島である。
  • この島にくる外国人観光客は20万人、日本人は7000人。ただし、国内の観光客もいるので全体では100万人である。タスマニア島の発見はオランダ人のアベル・タスマンで、到着した入り江に行き記念碑を読むと1642年と書かれている。因みに、ガイドブック「地球の歩き方」では1641年となっている。

タ ス マ ニ ア 州 第 一 次 産 業 省 水 産 局

  • ここで二人の担当官に概況説明を受けた。二人とも坊主頭というより五分刈り。スポーツマン的な体格で、言葉に率直性が感じられる。タスマニア島の牡蠣は100%人口採描である。品種はマガキ。歴史的には、白人の入植当時の1803年は野生牡蠣を採って、これを大陸に輸出していたが、徐々になくなってきたので、1900年代に養殖をトライしたが失敗した。戦後の1947年、初めて外国産牡蠣として日本からマガキを輸入し、育成試験してみたが、これもなかなかうまくいかなかった。
  • 1960年代に再び養殖に挑戦し、政府と民間のジョイントベンチャーで人工孵化技術を研究し、これがうまく進んで、牡蠣養殖が定着した。今では、三倍体牡蠣も養殖している。
  • タスマニア全体の牡蠣生産量は350万ダース。4200万個。ここではダースで計算する習慣である。この需要は国内マーケット中心である。タスマニア牡蠣の競合先はニューサウスウェールス州地区であり、シドニーロックオイスターだ。養殖方法は棚式と垂下式。養殖する場所は国からリースする。海の権限は国。現在120か所をリース許可している。一つのエリアで5から25ヘクタール。業者は80から85社くらい。最初の牡蠣養殖はホバートに近いPitt Waterで行われ、現在では島内の9地域で行われている。オーストラリア全体の牡蠣生産量は、大体、サウスオーストラリア州とニューサウスウェールス州とタスマニア島で三分の一ずつである。
  • 行政指導は、1995年に策定した養殖条件法に基づいて行っている。この法案を策定したのは、牡蠣養殖が広がって、業者同士の争いが増え、サーモンの養殖地と牡蠣とで海の取り合いになったので、この対立をコントロールするためであり、基本方針は公平に海域をリースする仕組みつくりと、環境を守る必要条件を明記したものである。タスマニア島の大きな地図を持ってきて説明してくれる。養殖海域ゾーンの中で全部の面積を使用するところと、一部分を使用して養殖するところに分かれている。このゾーン決定は、まず、最初に環境条件を考慮し、次に、地元の住民の意見、他産業とかレクレーション関係の意見を総合し、計画書をつくり公報に発表して意見調整し、民間の有識者が参加した委員会が決めている。決定条件は資産、技術力、販路などであるが、決定後は30年間リース権利を持て、15年時に見直しをしている。このリース方式、個人に与えられ、個人だから権利を売れることになるので、リース受けた海域を大事にすることになるという。つまり、自分の海だから大事に養殖するのだ。
  • この方式に対し、日本の場合は、漁業組合が権利を持っていて、組合員に抽選などで毎年海域を配分する方式なので、あまり海を大事にしない欠点があるという専門家の見解もある。さて、リース権限とライセンスは異なる。ライセンスは別途取得。事業展開内容検討して決める。ライセンスフィーがかかる。リース代金は場所によってさまざま。1haが100ドルからこの100倍まである。前述したようにリース権限は譲渡できる。タスマニアでは牡蠣は若い人よりは年配者、お金持ちのアイテムで、ぜいたく品に入るという。また、タスマニア牡蠣は品質がよく、高級品で、少量のよい牡蠣をつくることがモットーであると強調する。養殖業者も高級品をつくっているところで、レストランと結びついているところが成功している。
  • 最後に名刺のデザインを興味深く見ていると、担当官が次のように説明してくれた。「上下の波線は海を表し、縦線はグリーンと森を表し、この二つに囲まれた中に野生動物タスマニアンデビルを描き、その下にスローガン『Explore the Possibilities』、直訳すると『可能性を探検する』だが、一言で述べれば『来てみたらわかる。来なくちゃ分からない』ということだ」と。
  • この説明に納得。余計な宣伝はしなく、自然環境を守っていることに絶対の自信を持っているので、訪れた人々がタスマニアの事実報告をそれぞれしてくれ、それが宣伝になる。つまり、地球環境問題が問われている今の世界の時流、それに完全に合致しているという自信に溢れている発言である。