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シ ド ニ ー ロ ッ ク オ イ ス タ ー

  • 牡蠣の話題に入りたい。オーストラリアのシドニーでは、シドニーロックオイスターが人気で、これはオーストラリア原産牡蠣である。マガキに比べるとちょっと小ぶりで、稚貝から二年半~三年半程度かかり生育する。マガキはここではパシフィックオイスターと呼ばれていて、一年で生育する。シドニーロックオイスターの味は、ちょっと塩辛く、香りが程よく残って、最後に舌に苦味が残り、ついもう一個食べたくなる、というのが実感である。2005年12月に訪れたFARMERS ASSOCIATION(漁業組合)の、牡蠣担当アナリストのRACHEL KING女史に聞くと、個人見解だがという前提つきで、シドニーロックオイスターは特に中年層に人気あるという。
  • その理由は、昔、養殖が始まる前にオーストラリアの海岸で、自然に育っていたシドニーロックオイスターを採って食べた記憶が残っているので、その思い出の味に出合えたというところからではないか、とも補足してくれる。確かにオーストラリアの海岸は、どこでも自然の牡蠣が採れる。養殖地はシドニーがある「ニューサウスウェールズ州」、それと「南オーストラリア州」とタスマニアの「タスマニア州」で主に行われている。だが、シドニーロックオイスターの養殖は「ニューサウスウェールズ州」が99%占めているのだから、シドニーに行ったら、地元産でシドニーっ子が自慢するシドニーロックオイスターを食べないとオーストラリア牡蠣の味は分からない。
  • オーストラリアは周りを海に囲まれているので、魚介類の種類も多く、フイッシュマーケットも大きな設備で充実している。波止場に接しているフイッシュマーケットでは、毎朝5時半から競りが始まる。競りに参加する魚関係者は、事前にフイッシュマーケットのコンクリート床に、冷凍して箱詰め並べられた魚と、生きている海老や牡蠣の新鮮さを確認してから、コンピューターが組み込まれた階段状の操作盤がある位置に座る。座った前面には大きな二つの時計版があって、そこに品名と価格が表示され、その価格が変化していく中で、競り落とす価格を手許のコンピーター画面でインプットする。落札すると、その関係社名が表示され、また次の魚に移っていく。競りの終了時間は8時である。直ちに精算額がアウトプットされ、魚の運搬が始まっていく。このシステムが導入されてから早くなった。以前は14時までかかっていた。毎朝7時から観光客向けに案内ガイドつきの見学が行われていて、世界中から訪れる。さて、フイッシュマーケットの競りを見学して、コーヒー片手に休憩テーブルに座ると、そこは牡蠣や魚の販売所になっている。競り落とされた魚介類が切り身で並んでいる。価格は競りより20%~30%高くなっている。それでも多くの人が買っている。一般の人も自由に入って買うことができるので、朝から買い物客が大勢来てにぎやかである。
  • world09_01_sum.pngシドニーの牡蠣剥き
  • フイッシュマーケットの表から入って最初の角で、牡蠣剥きしているのが眼にとまる。眼鏡かけた中年おじさんが、一人でせっせと牡蠣を剥いている。シドニーロックオイスターである。話しかけてみる。
  • 「一日どのくらい牡蠣剥きするのですか」「そんなこと数えたこともないよ」「すごい量ですね」「一日5時間は剥いているよ」牡蠣剥き職人のプロである。
  • しかし、どうしてここで牡蠣剥きしているのか。ここでこの牡蠣全部が売れるのか疑問だ。そこで、また質問してみる。
  • 「こんなに剥いてどこに持っていくのですか」「そこのウインドウに並べるのさ」「でも、これ全部はここで売り切れないでしょう」「そうさ。後はレストランから注文が入っているので午後届けるのさ」「へエー。レストランは自分で牡蠣剥きしないのですか」「しないよ。できないよ」
  • ここでようやく分かったことは、オーストラリアではフランスのような牡蠣剥き職人のエカイエが、レストランにいないという事実である。
  • フイッシュマーケットで午前7時から牡蠣剥きし始め、終わるのに5時間かかるのだから12時頃に終了し、そこからレストランに配達することになる。
  • ということは、客は早くて12時からの昼食と、一般的にはディナーとして食べることが多いので、18時過ぎになるだろう。昨夜にシーフードレストランで食べた牡蠣は、剥いてから随分時間が経過していたのだ。それにしては新鮮でうまかったが、それはどういうシステムになっているのだろう。これについては後ほど触れたい。
  • さて、ここで思わぬ人物に出会った。フイッシュマーケットにはいくつかの魚介類売り場がある。その一つの駐車場に面した売り場に入っていくと、当然、牡蠣が並んでいる。その前に立ってみていると「一つ食べてみるかい」と大男が声かけしてくれた。
  • 「うまそうですね」「ほら! これがシドニーロックオイスターだから食べてごらんよ。うまいよ」「さすがにうまい」と少しお世辞を言いながら「随分牡蠣剥きが早いですねえー」「当たり前だ。世界チャンピオンだからな」「アイルランドの世界大会に出たんですか」「そうさ。そこでチャンピオンになったのさ」「パリのゴンチェさんもチャンピオンですよ」「ゴンチェさんを知っているのか。一緒に壇上に上がったよ」「そうですか。ゴンチェさんはよく知っていますよ」「ふーん。そうか。ゴンチェさんの友達ならこれも食べな」と今度は特別大きなパシフィックオイスターを剥いて持ってきて、これは南オーストラリアのものだと説明してくれる。
  • この人物はシドニーでは著名である。1991年、93年、99年とアイルランド・ゴールウェイで毎年開催される、世界牡蠣剥きチャンピオン大会に出場し優勝した。この大会の2009年開催状況は第二章でお伝えした通りである。
  • フイッシュマーケットの大男は言い切る。シドニーからアイルランドは遠いので毎年は参加できないが、参加すれば必ず優勝できると。
  • オーストラリアのマスコミにもよく出るという。だから、オーストラリアのメディア王で9チャンネルNINEのオーナー、大金持ちのケリー・パーカーの娘の結婚式に呼ばれて、パーティ会場で牡蠣を剥いたこともある。
  • 「そうだ。車の中に世界大会の写真があるから持ってくるよ」と車から戻って写真を見せてくれる。親切である。写真にゴンチェさんも写っている。今度パリに行ったらゴンチェさんに報告しよう。
  • この有名人物はJIM ANGELAKOS氏である。皆さんもシドニーに行かれたら、フイッシュマーケットに行って会うとよいと思います。出身はギリシャと言っていましたが、とにかく、オーストラリア人は陽気で親切です。