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ア イ ル ラ ン ド は 急 成 長 国 だ っ た

  • アイルランド共和国は人口400万人。首都ダブリンは110万人。国の面積は7万平方キロ。北海道とほぼ同じくらい。
  • この国のリーマンショック前までの10年間の経済成長は著しかった。年間平均で10%程度の成長。政府財政は大幅な黒字。税金も安い。不動産は高騰した。
  • アイルランドは800年前にイギリスの植民地となり、120年間の併合も重なり、イギリスに侵され略奪され続けた歴史がある。当時主産業は農業であったが、収穫された農作物はイギリス人不在地主によって徹底的に搾取され、残り物ではとても生きていけず、選択肢は餓死するか、逃げ出すかであって、多くのアイルランド人は後者を選び、アメリカへの大量移民が始まった。
  • その結果、19世紀前半に人口は800万人であったが、減り続け、一時は260万人まで激減した。国家として破たんし、ヨーロッパの最貧国と言われ続けてきた。
  • しかし、1973年へEU加盟を機に、開放経済政策、優遇税制による外資導入、高付加価値産業への転換、教育投資による人材育成、英語力(ヨーロッパでは英国とアイルランドだけが英語言語)の利点活用など、国が主導して一定の方向に経済・社会を政策誘導することによって、輸出依存型の経済発展に成功させ、とうとう2004年には、英誌エコノミストが「低い税率、高い経済成長率、質の高い教育と自然の美しさが、あらゆる面でも比類のない生活の質をアイルランドに与えている」と評するほどになった。
  • さらに、同誌で「低い失業率という新しい魅力的な要素に加え、健全な家庭生活と地域社会といった旧(ふる)くからの要素を維持したまま、両者を融合した」とも書かれるまでに至った結果は、アイルランドの歴史上初めて、出国者よりも入国者の方が多くなって、海外からの労働者人口は、総人口の1%から12%まで上昇した。つまり、所得、保健、気候、政治的安定等の指数比較で世界トップになったのだ。
  • このように、ヨーロッパ最貧国からはいずり上がったサクセスストーリーから、アイルランドは「ケルトの虎」と呼ばれるようになった。勿論、一人当り名目GDPで、英国、日本を抜き去っている。
  • だが、今回の金融危機でアイルランドは破綻した。ここ10年ほどイギリス、スペインと並んで欧州バブル三兄弟の一角を占めていたが崩壊し、長いパーティーの後の二日酔い状態となって、2009年GDPは前年比マイナスで「景気後退」から「不況」へと一気に突入した。
  • 住宅価格も大幅下落し、不動産セクターは国民所得の10分の1、労働力の13%がここに属しているので、不動産ブームが去って、失業者増と外国人の帰国ラッシュで、今では逆に、ポーランドがアイルランド人失業者をワルシャワへ呼び込もうと、就職フェアを開催するくらいである。

第 一 公 用 語 は ゲ ー ル 語

  • 牡蠣養殖場を訪問するために、国道一号線を車で北へ向かう。目指すのはカーリング入江 CARLINGFORD LOUGHである。国道一号線をこのまま走っていくと、北アイルランドに入る。北は英国領だが国境線に検問所はない。自由に行き来できる。定期バスが北へ行き、再び共和国側に戻ってくる。アイルランドには公用語が二つある。一つは英語。もう一つはゲール語。ゲール語の方が第一公用語である。ゲール語はケルト人の使った言葉。道路標識も二つの言葉が書いてある。空港内の表示も同じ。

警 官 の チ ェ ッ ク を 受 け る

  • 自然は山並みと高原と牧場と畑が続いている。山はあまり高くない。高くても1000m程度。なかなかよい景観だなぁと、のんびりと窓の外の風景に見とれていると、突然目の前にポリスの車が入ってきて、止まれと合図する。何事か。何か事件か事故か。わけが分からないが止まれというので停車する。ポリスが窓外からパスポートを見せろという。渡すとしげしげと見た後で返してくれる。どうやら日ごろ見かけない人種が、北方向に走っているので不振がられたようだ。ここにもまだ北アイルランドの独立闘争の戦いの後が残っている。無事ポリスから解放されて、再びカーリング入江を目指す。
  • 牡蠣養殖場のあるカーリング入江 CARLINGFORD LOUGHは、ダブリンから約100km北方向に位置し、車で一時間半かかる。

牡 蠣 養 殖 場 に 向 う

  • アイルランド人は海に囲まれた島国なのに、魚は余り食べない。肉類が好み。牛、羊、豚、鶏肉をよく食べる。野菜はジャガイモが主食。寿命は男女とも日本より五歳程度引いたくらいだから、それほど短命ではない。アメリカよりはデブは少ないように感じる。
  • その魚をあまり食べないアイルランドの中で、牡蠣を商売にしているのだからいろいろ難しい問題もあるだろうと思う。そんなことを考えていると、ようやくオイスターファーム(養殖場)に着いた。
  • カーリング入江の海沿いの狭い道を入っていくと、小屋を少し大きくしたような事務所があり、そこから若い女性が出てくる。これがとても愛想よい。長身。見方によれば美人。人をそらさない対応だ。
  • ここは1974年に父が牡蠣の養殖を始め、今は長男が継いでいて、その妹がこの愛想の良い女性だ。父はオランダから来た。

ト ラ ク タ ー で 牡 蠣 養 殖

  • sign_07.jpgトラクターで海へ
  • この女性が説明してくれる。牡蠣のグレードはサイズで決まる。スモール、ミディアム、ラージ、エクストララージの四種類。牡蠣の種類はマガキとブロンの二種。マガキは日本から来たもの。ブロンはネイティブOSTREA EDULISである。この湾では三つの牡蠣会社が養殖している。潮位は3.5mから5mある。
  • という説明を、貸してくれた超特大のブカブカ長靴を履いて歩く、というより引きずって浜辺にたどり着きながら聞いていると、急に止まって指を指し、遠く向こうに見えるのが社長だから、ここから潮の引いた海の中を自分で歩いていってくれとウィンクする。自分の担当はここまでなのだ。
  • 潮が引いた海底を500メートルくらい歩くと、向こうから長身の若い男性、これが社長だが現れる。今日は三日月だから大潮であって、朝六時半から九時半まで仕事するのだという。時間はちょうど九時半。十時以後は海水が満ちてくるので、これから陸に上がる。トラクターで移動するので後ろに乗れという。今来たばかりだから少し説明をして欲しいと要望する。