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韓 国 の 輸 出 攻 勢

  • sign_k01.png慶尚南道の統営市トンヨンの牡蠣養殖海域
  • 日経新聞の2010年2月26日記事で、日系企業の海外現地事務系課長職の2009年の年収が発表された。これによると韓国は4.4万ドル、台湾は3.0万ドル、中国は1.5万ドル、ベトナムは0.9万ドルである。1ドル90円(2010年3月中旬為替レート)で換算すると、韓国の年収は396万円、台湾は270万円、 中国は139万円、ベトナムは僅か81万円の年収。
  • この年収を日本人と比較するため、国税庁データ(2008年)を見てみた。一応、アジアの日系企業事務系課長職ですから、それなりの年齢であろうと、いくつかの年齢層の日本人男性年収を抽出し、韓国進出日系企業年収と比較してみた。
  • 日本人の30~34歳年収は453万円で、これは対韓国比114%、35~39歳は530万円で138%、 40~44歳617万円156%、45~49歳663万円167%、50~54歳670万円169%というように、日本人平均年収の方が韓国より各世代とも上回っている。
  • 日本人の年収で、最も高い業種は電気・ガス・熱供給・水道業の675 万円、次いで金融業,保険業の649 万円、低い業種は宿泊業・飲食サービス業で年収250万円であり、業種間で大きな格差がある。日本の国税庁データ年収は、これらの格差を含んだ全業種平均であるから、アジアに進出している同業種を抽出し、その企業の課長職レベルと比較すれば、前項で比べて見た年収格差はさらに開くと考えるのが妥当だろう。
  • この年収差が明確にあらわれた大事件が昨年末に発生した。それは韓国の「UAE(アラブ首長国連邦)原発落札」である。受注額が韓国400億ドル、対するフランスは700億ドル、日米連合は900億ドルで、これでは勝負にならず韓国が国際入札の勝者となった。UAEは価格のみ優先したのでなく、その後のメンテナンス力も考慮したという事らしいので、そうならば増して価格の安さが目立ち、安い上にサービスが優れているとUAEは理解したのだろう。
  • これが台湾や中国・ベトナムだったらもっと価格差は広がっているはずで、韓国の現代製自動車が海外でシェアを伸ばしているのは、この価格差と思われる。アジアには5001ドル~3.5万ドルの中間ミドル層人口が8億8000万人いると推測され、これらの需要を取り込むには、価格戦略が最優先となるが、これが果たして日本企業の人件費と円高では、対応可能なコストパフォーマンスがとれるのか、という素朴な疑問がアジア各国との年収比較で浮かんでくる。
  • さらに、韓国が輸出を伸ばしている背景に、韓国通貨ウォンWON(以下wと表示)安が影響し、輸出競争力が増しているのは事実だが、もう一つの大きな要因はサムスンやLG、現代自動車グループが財閥系企業ということもある。オーナー経営だから工場建設などの投資判断が迅速で、足元の需要が低迷していても、将来見込みが明るいとみれば果敢に投資する。そうすると需要が増えたとき、一気に高いシェアが獲得でき、成長加速が進むのである。これが韓国を訪問した際の状況分析であるが、これから韓国牡蠣事情に入りたい。
  • 2009年2月に訪れたソウルで、最初に向かったところは、鷺梁津水産市場NoryangjinノリャンジンFisheries Wholesale Market。ここに入って驚いた。活気に溢れている。各国の市場を見ているが、その中でも元気であり、庶民的であり、魚介類の種類も多いと思う。機能ではなく人手で運営されているという感じがする。雰囲気が柔らかいといってもよい。それは専門店でも、一般の人でも自由に入れて利用できることから生じているのかもしれない。
  • さて、牡蠣の売り場を探すと、発泡スチロールの箱に入って置いてある。
  • sign_k1_01.png市場で売られている牡蠣
  • 値段を聞くと天然ものは0.4kgで7000w、養殖ものは1kgで10,000wという。空港で両替したら一万円が152,000ウォンであるので、1wが0.0658円とウォン安がすごい。これで計算すると天然ものは0.4kgで460円。養殖ものは1kgで658円となる。これは安すぎだろう。しかし、実際の市場の価格だ。
  • ところで、天然もの牡蠣とは何だろう。販売しているおばさんに聞こうとしたが、多分、説明が難しいだろうし、こちらの意図していることが伝わらないだろうと思ってやめる。ご存じのように、牡蠣は世界中養殖ものである。チリではチリ牡蠣の天然ものがあったが、それも今では乱獲で少なくなっている。
  • 不思議に思いながらも牡蠣ウオッチングを続ける。殻つきの牡蠣は皿に10個盛って、上から薄いセロハン紙をかけたものが4000w、殻つき牡蠣が55個で10,000wである。このノリャンジン市場は、建物が細長く、奥行きは何百メートルあるか分からないが、幅も150mくらいあって大きい建物だ。市場の内容について詳しく聞きたいと、二階の事務所に行く。アポイントなしで突然お伺いしたが、企画総務課の課長が対応してくれ、英文パンフを見ながら説明してくれた。昨日は日本人が仙台から視察に来たという。
  • 年間の訪れる人は観光客を含めて一万人。広さは9952㎡、店の部分は9319㎡で808店、1927年に市場を開いたので85年の歴史がある。
  • 課長にずいぶん牡蠣が市場に並んでいますねと尋ねると、もうピークは過ぎた、一月がキムチを漬ける時期なので一番需要が多く市場に出回る時期だとの答え。次に先ほどの天然牡蠣について聞いてみた。答えは全羅南道の高興で自然のままで海から採っているという。岩についたもの、海底にいるものや、牡蠣用につくった専門の石を海に投げ入れ、それに自然の牡蠣を付けさせ、育ったら採集する投石法というものだと説明と、松の木を海底に埋めて、これで牡蠣を獲る方法も行われているという。しかし、この方法は手間がかかりすぎるとのこと。そうだろうと思い、その理由で養殖ものより高いのだろうと思う。
  • 課長に市場の取り扱う牡蠣の年間量を聞くと、2005年データで3300トン。このうち高興牡蠣は2~3%。それにしては店に天然牡蠣がありすぎる。どこの店でも天然といって並べている。今日のセリ場の価格は養殖カキが1.5kgで20,000wだったが、高興牡蠣の入荷はなかったはずだといい、普通、高興牡蠣は1.5kgで50,000wであるという。
  • これを聞いて、一階の市場で売っていた高興牡蠣0.4㎏が7000W、だからこれを1.5㎏に換算すると15,000Wとなる。課長の言う価格よりずいぶん安い。やはりおかしい。また、課長は天然牡蠣を日本に輸出しているというので、その状況を聞きたいというと、営業の部門に行って現地漁師の電話番号をメモして戻ってきて、ここへ直接聞いてくれという。そこで電話してみると、現地の漁師さんの奥さんらしき人が出て、長いことこの仕事しているが日本に輸出したことはないという。また、現地に来て現場を見たいならば、潮がひいて海におばさん達が入る時に一緒に入るしかないという。そうだろうと思うが、高興までは行く時間がとれないのでやめる。いずれの機会にしたい。
  • 次にロッテデパートの地下食料品売り場の、牡蠣のところに行く。そこでは統営トンヨン牡蠣を135g×2袋、2880Wで売っている。188円だ。安い。写真を撮ると係が飛んできて注意される。少し先に牡蠣とキムチを混ぜている女性がいる。ポスターに「味かきのしおから」と書いてあり、100g2900W、プラスチック容器入り500g13,000W(855円)である。どうやって作るのかと日本語で聞くと「キムチと塩も少し入れる」と正確な日本語で答えてくる。アクセントが日本人だ。多分、アルバイトしているのだろう。顔も日本人だ。いずれにしても人気アイテムのようで客が大勢集まってくる。食べませんかと言われたが生なのでやめる。ちょっと怖いので。
  • 次にワイン売り場に行く。牡蠣に合う韓国のワインを欲しいというと、MAJUANGを薦められ、赤白2本買う。産地はどこかと聞くと慶尚北道で慶山市GYEONGSAN-SIという。
  • 次に牡蠣専門店に行く。「かき村」という店。殻付きの牡蠣焼きを注文するがメニューになし。ここはチェーン展開の店で、結構店があるらしい。こういう牡蠣専門の業態店があるのは世界で初めてみた。韓国人は牡蠣を外食でよく食べるのだろうと推測する。昼食時間で、次から次へと店に入ってくる。牡蠣のてんぷらと牡蠣ご飯食べて二人で22,000W。この店の立地は東大門の近くで。再開発でファッションビルが建ち、おしゃれな街と昔ながらの食道街が混在しているところ。人が大勢歩いている。
  • このような店はどうして発想したのか。それを調べる必要があるだろう。そこで2010年4月1日に、牡蠣村フランチャイズ本部のあるソウルから車で一時間離れたところに向かった。
  • アポイントの時間は10時、しかし、30分早く着き、そのままフランチャイズ本部のビルに入った。五階のエレベーターを降りると、そこが牡蠣村本部。隣はスポーツクラブ。社長はまだ出社していないので、管理本部長が対応してくれる。牡蠣村は10年前から展開している。メニューを牡蠣だけにしておくと、夏場の客が30%程度減るので、今はタコとアワビもメニュー化している。また、牡蠣蒸しと、牡蠣焼も加えている。
  • 牡蠣はトンヨンから仕入れしている。10kgで8万から9万wで仕入れる。一番高い時で11万w。夏場は5万wになる。後で述べるが、この時期、トンヨンの牡蠣組合の競り場では、10kg当たり5万wで取引されていた。さて、韓国人にとって牡蠣は、それほど高い食材ではないが、安いものでもないというレベルだなど伺い、社長が書いた本と、創業経営者11人の物語で、タイトルは「成功するための失敗」というものをいただいた。このタイトル、意味が分からないので社長に聞いてみようと思っていると社長が出社したと連絡があり、隣の社長室に移った。社長はKi Jo Jang氏53歳。今はまだ寒いのに、ワイシャツ一枚でいる。印象は穏やかで、対人関係に神経を使う人物とみた。日本には年に二三回行くといい、親しい企業の名前を言う。
  • 現在、牡蠣村の店数は67軒で展開。方針としては、フランチャイズはそれほど多くしなく、フィーを高くしている。社長にこの商売を始めた経緯を聞くと語り出す。昔、大邱Daeguで、エスカルゴを韓定食に組み入れた業態を始めたが、これが大失敗で、借金抱え大変なことになった。その時、たまたま韓国の西側海辺で、牡蠣スープを食べたところ、味が素晴らしく、この味を取り入れた牡蠣料理を展開すれば、成功するのではないかと感じ、この店のスープを二カ月毎日研究した。
  • だが、当時の西側の海の牡蠣は価格が高かったので、慶尚南道の統営市トンヨンの養殖地に行ってみるとそれほど高くない。そこでトンヨンの牡蠣を使って、大衆化した牡蠣料理を作って始めて店を出したのだ。その店もお金がなかったので、空家になっていたところを、二ヶ月間家賃を無料にしてもらい始めた。場所はオフィス街で飲食店としてはどうかと思ったが、場所をどうこう言っている場合ではないくらいに追い詰められていた。しかし、オープン初日、思いがけなく近くのサラリーマンが昼食時に入って来て、たちまち満員になった。これで自信を持ち外食フランチャイズを展開しだしたのである。経営のポイントは広告宣伝をしないことだ。テレビ局からの取材で放映されたことはあるが、自らの費用では宣伝しない。また、店の立地はどこでも構わない。味と誠実な対応で進めているのが武器。これを今後も維持する。
  • 海外進出はまだ早いと思っている。在日韓国人から日本展開を進められているが、韓国の外食が外国で成功した事例はまだないので、まだまだ外国への進出には時間がかかるだろうと思っている。成功した背景に韓国人の牡蠣を食する習慣がある。韓国人は牡蠣を家で料理して食べる習慣は少ない。刺身で食べるか、ご飯に入れる程度。だから、外食として成り立つのだと思っている。
  • それと、それまで大衆的でなかった牡蠣を、一店ずつ開拓し、時間をかけて展開して、じわっと一般化したことが成功要因だろうと思っている。その証明になるのが客層で、これは若者から高齢者まで幅広い。
  • 今精力的に動いているのは、アワビを大衆化することだ。先日、アワビを扱う店をオープンさせ、もう一店を計画中である。韓国でアワビの養殖は一年前は4500t、今年は10,000tとなった。中国からも仕入れしようと思っている。
  • ここで、これから近くの牡蠣村直営店に行こうと誘われる。店に行くと70席くらいのスペースで、床が磨かれていて、清潔感がある。従業員の対応も柔らかい。
  • テーブルに座ると、牡蠣料理が運ばれてくる。まず、食べたのがビビンバ、一瞬「うまい」と声が出た。何とも言えない素朴な味わいで品がある。このような味はなかなか出せないと思う。それを素直に伝えると社長はニコッと笑う。これが6000wとは安い。その他の料理、海草クッパ、鶏肉クッパなどもうまい。メニューを見ると、クッパ雑炊、お好み焼き、チヂミ、生カキもある。メニューは20から30アイテムある。しかし、売れ筋は10アイテムだろうという。
  • そのメニューのトップページに、英語で書かれているのが、「Perfect Well-Being Food」完璧な健康食事、というような内容だろうと理解する。最後に、結論的に述べた社長発言に納得した。それは、韓国の方が日本より一人当たりの牡蠣消費量が多いとのこと。これは実際に韓国内を歩いてみての感覚と一致する。食事を終えたら、これからアワビの店を見てくれというが、時間的に難しいのでやめる。少し残念だが次回の楽しみとしたい。ところで、本のタイトル「成功するための失敗」について尋ねると「それが自分の財産だ。失敗がなければ今日はなかった」と自信あふれて顔で宣言する。こういう経営者が存在するところが、韓国のバイタリティだろうと思い、これからの活躍を祈って握手して別れた。

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