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養 殖 組 合

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  • 今日はダブリンから82キロメートル、北方向のダンドークDUNDALKに行く。ここの養殖組合AQUA CULTURE INITIATIVEを訪ねるためだ。ここは事前のアポイントが快く受けて頂いて、準備万端という感じで迎えてくれた。会ってくれたのは資源開発オフィサーのディミアン・トーナー氏 DAMIEN YOUNERとフランス出身の女性。この養殖組合でアイルランドに来てから、始めてビジネス的な会話ができた。通常の打ち合わせ会話であり、ちゃんとしたミーティングルームでコーヒーも出た。今までは立ち話か小屋みたいな環境だった。牡蠣養殖業者や市場の中は仕方ないが、改めてこの養殖組合の対応に感謝したい。
  • この養殖組合は国の機関である。北との平和解決の中から生まれた対策の一つでアイルランド島の全体を担当している。水産庁BIMに属し、3年前にINCO(IRISH NORTH COAST OYSTER)、これは共同販売組織であるが組織化した。
  • INCOが扱うアイテムと順位は①大西洋サーモン②ムール貝③オイスター④マスの順である。養殖社数は103社。
  • アイルランドの養殖業者の規模は1トンの生産業者から600トンまで幅があるが、平均すると50トンから100トンだろうと言う。マガキの稚貝はフランスとイギリスから買う。この海ではマガキは産卵しない。水温が4℃から24℃であるので冷たすぎるのだ。
  • 稚貝は親指の爪の大きさで、一つの網に600個から1000個入れる。二ヵ月後に二つの網にわけ、一年後に300個から400個の網にし、二回グレードアップする。勿論海によってこの間隔は異なる。大体18ヶ月から24ヶ月で育つ。
  • 海の水質基準はAとBとがある。Aの海は20か所で後はBであるが一年中Bというわけでない。夏の2~3ヶ月がBであって、これは別荘・ホリディホームが多い期間のため、その期間がBとされる。水質の検査は北アイルランドでは12ヵ月ごと、共和国は6ヵ月ごとに行っている。
  • 今後の方針は、アイルランドは観光立国を目指していて、観光としての海を利用しているので、これ以上養殖場は増やせない事情があるので品質を高めるしかない。そのためにはブランド化が必要だと感じている。ブランド化し単価アップを図りたい方針である。

牡 蠣 の 国 境 越 え

  • ところで、養殖組合のフランス出身の担当官が「フランスは14万トン生産していると言っているが、実際は半分の7万トンに過ぎない。半分は外国から輸入している。アイルランド、イタリア、スペイン、ドイツ、オランダからだ」と発言した。
  • これにはビックリした。フランスの主要養殖場や、フランス国立貝養殖委員会で生産量を尋ねると、一様に揃って14万トンと答えるし、FAO(国連食糧農業機関)データでも発表されている数字は14万トンになっている、と反論したところ、「間違いない。ここからフランスに輸出しているし、私はフランス人だから事情は熟知している」と明確に言い切る。
  • 真偽の程は分からないが、アイルランドの養殖組合の言うことが正しいとすれば、フランスの牡蠣の半分は国境越えしてきていることになる。
  • しかし、この国境越えには検問所もなく、警察官のパトロールもないのであるから確認しようがない。だが、フランスで食べる牡蠣はフランス文化の小粋な味がするし、アイルランドで食べる牡蠣には北の海の鋭さがあり、イタリア、スペイン、ドイツ、オランダ、それぞれその国でも味が違う。
  • 牡蠣は国境越えしても、すぐにその国の海に馴染んでしまうのだろう。牡蠣は人間より適応力があるからだろうと、妙に納得しているところだ。

牡 蠣 の 価 格

  • 牡蠣の市場価格は、養殖業者出荷でキロ当たり2.05ユーロ、日本円で297円(2006年3月時点レート1ユーロ145円)。卸元はキロ当たり2.8ユーロ、406円。スーパーではキロ当たり5.6ユーロ、812円。一キロは約15個。従って養殖業者は一個約20円。卸は27円。スーパーは54円となる。
  • 翌日にダブリンの街中の魚屋によってみた。牡蠣価格を確認すると、一ダース6.95ユーロ×145円=1007円÷12個=84円となる。魚屋が一番高い。しかし、この魚屋は牡蠣が20個しかなかった。月火は入荷が少ないのだ。いつもはもっとあるらしい。魚も種類も少ないし鮮度が悪い。いずれにしても島国なのに魚は食べない国民だということとが魚屋の店頭実態から分かる。

牡 蠣 養 殖 の 歴 史

  • 養殖組合から聞いたアイルランドの牡蠣の歴史を紹介したい。17から18世紀に天然の牡蠣のネイティヴを採るようになり、場所としてはCARLINGFORDカーリングフォード、WATERFORDウォーターフォード、GALWAYゴールウェイ、CORKコーク、DONEGOLドネゴールの海で行っていた。因みにアイルランドが誇る歌姫エンヤは、このドネゴールが所属するアルスター地方(北アイルランド)のCROLLYクローリー生まれ。そこに今でも子どもの頃父親や兄弟と一緒にステージ立ったパブがあって、世界からエンヤのファンが集まってくるらしい。
  • さて、牡蠣養殖だが1960年代に衰退していった。1975年からゴールウェイのCARNAカーナでマガキの導入研究を行って、カーリングフォードの養殖場、これは見学したところだが、ここで養殖を再開し始め、1980年代の初期(1984年まで)には現存の養殖場の殆どが確立した。1990年代に年間生産量5~6000トンに達し今になっている。