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香 港

  • ところで、世界の各地養殖場を訪れて、輸出をしているかどうかを聞いてみると、輸出先の地区は大体において香港という。中国に返還された香港では、世界の牡蠣がどのように食されているのか、それを探ってみることで中国編のまとめとすべく、2010年5月のゴールデンウィーク明けに香港を訪れた。
  • 香港は1998年に、それまでの啓徳空港にかわってチェクラブコク赤鱲角国際空港がオープンした。到着してすぐに感じるのは世界中から訪れているという感じである。入国審査で並ぶ顔ぶれをみれば国際色が華やかである。空港で3月の中国で残した元を香港ドルに両替すると、渡した元より少し多くなって香港ドルが戻ってくる。元の方が為替レートが高いのである。1香港ドルは約13円となる。
  • 香港で最初に向かったところはジャスコスーパーである。入り口に「吉之島」と書いてあって、これがジャスコの香港名。場所はHONG HOMホンハム駅から近いところで、周りには中所得階層が住むというマンションが沢山建っていて、日本人駐在員も多いという。ジャスコ店の中は活気がある。客が多い。地下の食品売り場に行くと、福島食品とあり、生牡蠣が売られている。店員ははっぴ姿で鉢巻的な手ぬぐい巻きをしている。
  • 殻付き生牡蠣は、フランスのマガキが1個38ドル494円。ブロンが1個68ドル884円。南アフリカ産カキがある1個30ドル390円。オーストラリア牡蠣は1個30ドル390円。この売り場を見てなるほどと思う。今までフランスやオーストラリアで輸出先を聞くと香港という答えが多かった。やはりその通りと確認できた。
  • 同行してくれた地元のガイドによると、有名ホテルの昼夕食バイキングでは、必ず生牡蠣があるという。生牡蠣が出されるところが一流なホテルの証明とのこと。ジャスコには広島産冷凍牡蠣もある。日本語で瀬戸内海産と書いてある。3L、159ドル2067円。身が大きい。冷凍アワビ・エビ・タラもある。北海道ホタテは1㎏199ドル2587円。
  • 次に向かったのは日本の地方銀行香港支店である。知人がいるので挨拶に寄ったのだが、親切にスーパーの牡蠣価格を調べていてくれた。日系の高級スーパーのCitysuperの生牡蠣殻付き価格、ノルウェー産1個41ドル、アメリカ産1個32ドル、ナミビア産1個32ドル、日本産1個38ドル、フランス産1個30ドル、イギリス産1個42ドル、イタリア産1個28ドルと多彩な国である。やはり香港には世界中の牡蠣が輸出されていることが分かる。しかし、これが全量香港で消費されているかどうかは不明とのこと。中国本土や各地に再輸出されている可能性が大だというのが、銀行の知人の見解である。
  • 香港の最初の夜は潮州料理に向かった。ご存知のように、広東省潮州市や汕頭市を中心に食べられている中華料理である。店名は潮州城。入ると日本人観光客ツアーが大勢いて食べている。ここでの潮州料理は、貝柱入りフカヒレスープ、野菜と鮑貝煮込み、ガチョウ肉の胡椒炒め、チャーハンと、牡蠣はお好み焼き、牡蠣入りオムレツ、牡蠣入りお粥である。全体的に淡泊な味付けであって、日本人に合う。最初に薬効のある工夫茶ゴンファーチャが小さな杯に出てくる。これをまず飲む。食後にも飲む。
  • さて、牡蠣のお好み焼きは、牡蠣がもちもちとして舌に味わいよく、これは牡蠣に合う料理方法だと感じる。そういえば兵庫県の備前市日生町では「カキオコ」という牡蠣のお好み焼きが人気らしい。カキオコを食べに来る人の増加で、地域の活性化図っているらしいと聞いたことがある。日本に戻ったら行ってみようと思う。
  • ところで、食事の際、地元の人から、広東語圏では、正月に牡蠣を縁起物として食べる習慣があると聞いた。概略の理解だが、それは以下のような内容である。「金持ちのことを富豪という。この豪は広東語では『ホウ』と発音する。この発音、イントネーションを正しく表記することができないが、牡蠣は蠔と書き、同じく『ホウ』と発音し、同じ発音だから牡蠣はお金持ちに通じるという前提がある。また、干し牡蠣は『蠔干』と書き『ホウシ』と発音する。また、『蠔豉』とも書き、これも『ホウシ』と発音する。これは『好市ホウシ』、つまり、景気が良いという言葉と同じ発音のため、牡蠣は縁起物となる。 蠔干・蠔豉は蒸す、炒め、焼く、それらを醤油や蜂蜜をたれとして食べる。
  • もう一つは甘蠔ガンホウと書く干し牡蠣もある。これは二三日干したもので中は乾燥していないもの。この甘は『ガン』は金の『ガン』と発音が通じるので、縁起が良いといわれている。そこでお目出度い正月に干し牡蠣を食べる習慣がある。
  • もう一つは『発財好市』がある。発財は『ファウチョイ』と発音し、これは髪菜という髪の毛のような細い昆布と発音が同じ、また、好市は蠔干と同じ発音なので、髪菜と干し牡蠣を食べると縁起が良いということになる。ということで香港では干し牡蠣が大量に正月に食される」
  • sign_c_4_1.png屋台売り場の甘牡蠣
  • このような説明を聞き、その後何人かの香港人に確認したが、正月の縁起物として牡蠣を食べる習慣があるということは確認できた。しかし、中国人の風習を完全な理解は難しいので、これ以上、その牡蠣は縁起物という論拠を正確には説明できないが、香港で干し牡蠣が正月中心に、多く食べられる背景について大体のところで理解いただきたい。
  • 次の日は流浮山ラウファウサンLAU FAU SHANに向かった。ここは観光ガイドに掲載されていなく、外国人観光客は少ないところで、車で行くしかない不便な地区。九龍カオルーン中心地から40kmほどだが、渋滞での山道を通って一時間要した。后海港に面して、うも向こうに深圳市が見える。
  • 今日は小雨である。車を降りて入り込んだ路地は、幅3メートル程度の狭いところで、両側は店が立ち並んでいる。屋根が軒から出ている店と、何もない店があるので、傘が必要だったり、途中でいらなくなったり、また、屋根があってもその間から雫がぽとぽと落ちてくるので、用心して傘をさして歩く。突き当たりは海になる。
  • 路地の入口から海辺に出るまで、約200mはあるだろう。店は乾アワビや様々な貝の干したもの、スルメや魚介類の干物、名物である牡蠣のオイスターソース蠔油ホウヤウ、鮮魚を水槽で売っている店が数えると20軒以上、海鮮酒家というレストランが10軒以上、それと雑多な物品とお土産もあり、また、一口で食べられるようなお菓子や餅も売っていて、たったの200mだが随分楽しめる。甘蠔が生晒と書いて、半斤250gで85ドル1105円。改めて見るが、こういう牡蠣は日本にはない。
  • 海の見える突端に立つと、ここは牡蠣剥き作業場らしいところであるが、既に夕方のため作業はしていない。向こうを見ると少しくらいが筏の列が横に長く並んでいる。また、そこへ行くため用の作業船が数隻浮かんでいる。福建省潮州で見た船とは全然違う。ちゃんと舳先があり船らしい形態をしている。さすがに香港と思う。牡蠣船の姿でその国の成長度合いが分かる。
  • ふと足元を見ると牡蠣殻がたくさん散らばって地面にある。また、その向こうには牡蠣殻が3mくらい積み上げてある。その牡蠣殻が随分大きい。中国で今まで見た中では最も大きい。中には15センチメートルを超すものもある。年数が4、5年経過していると思う。ここでは小さい牡蠣はないのか、とその疑問を持って夕食のレストランに行く。
  • 入ったのは「海景海鮮酒家」、入ると店員がまだ食事をしている。早いのだ。店内を見ると芸能人と店の人たちと写真撮っているものが何枚も張ってある。それと牡蠣を引き上げている写真もある。吊り上げひもは1.3Mくらい。察するところ海は深くない。浅瀬で養殖しているのだ。しかし、牡蠣は大きい。播磨灘の牡蠣と同じくらいある。日本からの雑誌の取材記事も壁に貼ってある。
  • さて、先ほどまで店員が食事していたテーブルの上掛けを裏返しにして、そこに茶碗と箸と皿を並べる。座るとガイドが箸と茶碗とコップを熱いお茶で洗いだす。こうするのだというのでしてみたが、これは店の食器が不衛生なことを意味するのではないかと思うし、洗うのは店に失礼ではないかと思ったが、後で入ってきた別の客も同様のことをしているので、これは香港の昔からの習慣らしい。
  • さて、期待の料理は蜂蜜入りの焼き牡蠣、葱とニラと牡蠣の炒め物、カキフライである。それと海鮮スープ、野菜炒め、チャーハン。牡蠣は大きいが食べてみると周りの肉片が少し硬い。年数はやはり4、5年ものという店からの説明。年数がたつと周りが硬くなるのだ。味はまあまあ。入り口に客が手に魚介類の袋を持って入って来て、入口の箱に置く。鮮魚店で買ってきて料理してもらうのだ。鮑があったのでいくらかと聞くと1個70ドル、少し高いが蒸して食べる。味は今一つ。しかし柔らかい。日本で食べる鮑は固いもので大きい。中国の鮑は中型で柔らかい。これは潮州の鮑養殖の家で食べた時も柔らかった。
  • いつの間にか店は満席。二階にも客が上がっていく。表に出てみると、隣と前の店は客があまり入っていない。店主らしき男に聞くと既に31年間ここで営業しているという。偉いといい拍手してあげるとうれしそうに笑う。
  • どこに行っても繁盛している店と、それほどでもない店が混在している。いろいろ要因があるのだろう。
  • 三日目は鯉魚門レイユームンへ行った。九龍中心地から20分くらいで着く。この地区の周りはマンション多く、この一角だけが海鮮類の店が立ち並び、港には魚船が数隻停泊している。たくさんの鮮魚が水槽の中にいる店が、軒並みに競っている中を、奥まで歩き、一番大きいと思われる「海徳花園酒家」に入る。入り口にジャーマニー歓迎と書いてあるように、ドイツ人グループが二組いる。15人と10人の団体旅行である。生きのよい伊勢海老を手に持って歓声あげて写真撮っていたグループだ。
  • この店では、蒸し牡蠣、揚げ牡蠣である。牡蠣は大きい。明らかに中国産でも日本産でもないことが分かる。アメリカ産だというので、アメリカのどこかと聞くが分からないという回答。どうもどこの場所で獲れたなどとは気にしないらしい。これだけの鮮魚を集めているのだから、世界中とのネットワークがあるのだろう。食の香港の位置づけが分かるような気がする。
  • 牡蠣料理の次は、蒸し魚であるが、これは一食べても美味しい。特にたれが美味く、チャーハンやご飯にかけて食べると食が進む。二杯チャーハンを食べてしまう。まだ料理が出で来る。蒸し伊勢海老、シャコの塩焼き、葱と蟹の炒め物、海鮮スープ、フルーツがスイカ。これと青島ビール。このビールはうまい。
  • 香港最後の夜は、九龍中心のネイザンロードから少し入ったところの「Island Seafood & Oyster Bar」へいく。レストランが立ち並ぶ一角にある。全面はブルーの濃い色で、海の雰囲気を出している。
  • sign_c_4_2.png生牡蠣販売コーナー
  • 店内の生牡蠣が並んでするコーナー、ここは氷の中においてある。週末とかは20種類以上の生牡蠣があるらしいが、今日はウイークディーなので15種類程度。また、12個注文するとIrishアイルランド牡蠣が6個サービスとなる。そこで次のようにオーダーする。
  • Eld Inlet usアメリカ
  • Hammerslay usアメリカ
  • Tasmania austオーストラリア
  • Coffin Bay austオーストラリア
  • Scot Loch ukイギリス
  • Fine De Cancal frフランス
  • Marennes frフランス
  • Quiberon frフランス
  • Ancelin frフランス
  • Perle Blanc frフランス
  • Roumegous frフランス
  • Belon frフランス
  • Irish Gigas6個
  • と5カ国になる。これを見てジャスコの店頭と、世界各地の養殖場で聞いた内容を思い出す。やはり香港に輸出していることは事実だ。この最後の客との接点となるところに、世界中の多種類のカキが並ぶということ。それは香港の市場の特徴を示している。
  • sign_c_4_3.png美味しい牡蠣が盛られて出される
  • そこでウェイトレスにどうやって仕入れているのか聞いてみると、答えは「シークレット」の一言で、それ以上は笑顔のみ。英語が流暢な若い女性が、絶対に教えませんよという笑顔を続け、ウィンクする。ガードは固い。いずれ解明したいと思うが、今日は彼女の笑顔に負けた。彼女の名前は名札にZOEスイーとある。発音が難しいので漢字で書くようにというと、陳と書く。陳はZOEとは言わないが、漢字読み名と英語名で名前を使い分けているのだ。
  • さて、生牡蠣には白ワインである。陳さんと違うウェイトレスに推奨ワインは何かと聞くと、テーブル上のイタリア白ワインを薦める。しかし、これはやめて、フランスのムスカデを先ず飲んでみた。味はマイルド普通感覚である。物足りない。そこで、牡蠣にはシャブリという通説通りにする。ムスカデより1.5倍という価格だが、さすがにシャブリはうまい。冷えごろもよく、これはいけるとついワインが進む。
  • ところで、冷えごろということから気づいたことがある。牡蠣を食べ、ワインを口にし、その冷え頃感覚が舌に馴染んで合う、だが、何か違うような感じがしてならない。問題という意味でない。牡蠣の味もよく、各地の特性が微妙に異なり、それとシャブリが絶妙であるから何も言うことがないが、何か気になる。それは何か。どうしてかと思いつつ、すくそばの生牡蠣が並んでいるコーナーを見たとき、これかと気づいた。それは、牡蠣が氷の中に置かれている。同じ温度で管理されている状態ということである。
  • 食べた牡蠣は、全部味わいが違うが、共通しているところがあることである。それは、冷たさが程良くなっているということ。つまり、全部の牡蠣が同じ温度に保たれているという、一つの基準値で牡蠣が提供されているということである。だから、牡蠣それぞれの味は異なるが、食べ終わった後の感覚は一定のティストとなる。
  • ところが、今まで養殖場で食べ続けてきた牡蠣は、その海そのものだった。海水も温度も牡蠣の種類も、その時の天候もすべて異なる。だから、それぞれの味がはっきりと明確に感じられたのだ。そこで、食べてみるとそこの土地と海の味わいが濃く表現されていたのだ。しかし、ここはオイスターバー、しっかり管理されている牡蠣である。美味いがそこには人間のコントロールが入っていた上での味である。ここが海の養殖場で食べる牡蠣との根本的な違いである。当方の舌は現場の海味に馴染み過ぎているのだ。そこでオイスターバーの牡蠣に違和感があったのだ。
  • オイスターバーは海の中にあるのでないから仕方ないし、鮮度管理から必要なことだが、養殖場で海の上で食べる牡蠣とは全く異なる。やはり、今まで回ってきた海の上に勝るものはない、本当に感じた国際都市香港のオイスターバーだった。
  • 最後に印象に残ったのは、陳さんの自信たっぷり応対である。牡蠣は専門家だという風情、特に、ベロンを食べようとすると、それは味が混在してペロンの魅力が分からなくなるから、マガキを食べ終わってからにしなさいと、陳さんから命令調のサゼッションがあった。なるほどと頷き、そういう発言をするのであるから、相当の修業をしたのだろうと、この仕事についてどのくらいかと聞くと「6ヵ月です」には椅子から落ちそうになった。
  • 6ヵ月でこれほど自信溢れた応対が可能なのか。一般的には無理と思うが、ここは香港であり可能なのだ。香港女性の強さを証明しているのだ。何事も強気で押してくるというタイプが多い。それがこの陳さんにも典型的に表れていると思う。いろいろな意味で素晴らしい香港の牡蠣食べ歩き経験だった。