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中 国

  • 中国の牡蠣養殖の実態はなかなかわからない。そこで、再び中国に出かけた。2010年3月である。今度は上海から中国東方航空で廈門アモイXIAMENに着き、翌朝9時に車で出発した。行先は福建省漳州市の海産物冷凍工場である。ちょうど土曜日のため工場は稼働していないが、清潔に掃除してあるのが印象に残った。
  • 事務所で紅茶を入れてくれる。中国式の入れ方を見ていると、なるほどと思うことが多い。中国では紅茶(完全発酵茶)は、茶葉を酸化酵素の働きで完全に発酵させたお茶で、一般的に紅茶は、インドやセイロンのイメージが強いので、どうしてここで紅茶が出てくるかと疑問に思ったのだが、紅茶は中国・福建省で生産され始まったものだとの説明になるほどと思い、中国紅茶はタンニンが少ないため、ストレートで飲みやすく食事にも合うとの説明も加わる。話しながらも、お湯を茶器にドンドンかけ温める。かけたお湯は台の上に溜まって溢れるのではないかと心配していたら、お湯は片隅のホースで流されるようになっているので、余分な心配であった。しばらく温める作業をして、それから茶葉を蓋碗に入れ、そこにお湯を入れたので、これで茶杯に入れるのかと思ったら、また、入れたお湯を捨てる。当然に紅茶となっているのが捨てられるのである。これを何回かして、ようやく蓋碗の蓋を少しずらし、親指と中指で蓋碗のへりを持ち、人差し指で蓋を押さえ、蓋碗を持ち、そのまま茶海に茶を注ぎ、茶海から茶杯に入れるのである。
  • お茶の入れ方を述べているとキリがないので、これでやめるが、さすがにお茶の発祥地の入れ方はシステム的であると感じ入った次第。お茶を楽しんでいると、冷凍庫から冷凍牡蠣養殖とエビを出してきて見せてくれる。少し水分が多い冷凍牡蠣かと思うが、中国国内と台湾へ輸出している。台湾では小さい牡蠣が好まれるという。
  • この工場は従業員100人くらいで、地元の人が多く、給料は出来高制で一人1200元から3000元くらいなるという。このあたりではよい仕事かと思う。牡蠣養殖の一人当たり平均の養殖海域面積は、大体150畆、1畆は660㎡(200坪)だから約3万坪となる。牡蠣が多く獲れるのは5月から6月、販売単位は斤(じん)で、1㎏=2斤だから0.5㎏=1斤。1㎏が14元から10元くらいという。
  • 牡蠣は中国では大衆的な食べ物になっている。料理の具として、海産物と一緒にするとか、スープに入れる。
  • そのような会話になったので、昼食に誘われる。街中のレストランに行こうという。道路に面したドアなしの店、仁和飯店と書いてある所に入ると、板台に食材が並び、水槽に魚がいて、オープンキッチンになっている。囲いがなく、調理しているのが見えるスタイルになっている。また、一応清潔である。食べるのは、別棟となっている裏の建物の二階、持ち込んだ冷凍牡蠣で、てんぷらと炒め物やいろいろ料理が出てくる。それをチンタオビールの缶で飲みながら食べるが、中華料理に必ずついてくるお茶がない。
  • ウェイトレスに催促すると、何と紙コップ一杯のお茶だけ持ってくる。ビックリする。今までの中華料理の常識が覆される。この地方では食事にお茶は出ないのである。これが中国なのだ。地方ごとに違う習慣を示している。中国の風土を表す言葉に「地大物博人多」がある。土地が広くて、物産が豊富で、人が多いという意味だが、各地で習慣が異なることも多いだろう。中国を一言で結論化するのは難しいと再び感じる。
  • 食事を終えて、海辺に行く。一人の漁師の養殖海域である。痩せて色黒で脂だらけの歯をした男が、この海域の経営者だと紹介受ける。そこで牡蠣養殖について、いろいろ尋ねようとしたところ「自分は養殖を実際にしたことがないので分からない」と煙草を吸いながら向こうに行ってしまう。困ったなと思っていると、経営者が携帯電話で伝えたのだろう、沖合の養殖場から船がこちらに向かって動き出した。
  • 船が見えるところまできてびっくり。これは船でない。筏だ。舳先がない平らな板敷きにエンジンがついているだけ。これで養殖現場に連れて行ってくれるというが、転覆の危険が高いので断る。牡蠣を沖合から持ってきたので見ると、ひもについた牡蠣が15㎝位の間隔で数個ごと固まって育っている。牡蠣はまだ小さい。5月になると大きくなるといい、6月になると台風が来るので引き揚げて、8月に種を陸上でとり、稚貝をひもにつけ、9月にポリエステルの板ブイの間にひもを通して養殖する。ブイとブイの間は100m。海中深くには入れない。海面に横に並べる方法。
  • この方法は「外海吊法」だという。海に平面式に並べる方法である。日本の垂下式でない。この方歩では収穫量が少ないのではないかと思う。この海域では、6年前まで昆布の養殖をしていて、牡蠣養殖に切りかえた。また、反対に、牡蠣養殖で昔は主力産地だった東山、ここから近いところらしいが、今はアワビの養殖に変わっているという。理由はアワビの方が儲かるとのこと。
  • そこで、アワビの種を養殖しているところに行ってみた。大きい水槽がいくつも並んでいる。大連から親アワビを買ってきて、種を育て売る商売である。随分景気が良いらしい。ここも始めて6年である。自宅兼事務所の応接間でお茶をごちそうになる。ここは鉄観茶であるが、入れ方は紅茶と同じ。ただし、お茶を入れる台が電気ヒーターとなっていて、冷めないようになっている。仏壇があるが、隣に福という字のお守りが反対に張ってある。福が逃げないようにとのことらしい。
  • 壁には共産党幹部の顔が描かれたポスターがある。ここの経営者は共産党員だということが分かる。いろいろ雑談して、一時間経過したのでホテルに戻るというと、食事していけという。始めて日本人と話したので、歓迎したいといい、既に料理を注文したからといっているうちに、出前料理がオートバイで着く。それに加えて丸顔の奥さんの手料理が並ぶ。
  • 飲み物は、まずビール、続いて出されたのが白酒の金門酒で、これは58度あるという。これをグラスに入れ乾杯となった。中国式は一緒に飲む相手を決めて、お互いが一気飲みするシステム。これは大変だ。白酒で一気飲みすると倒れる。なるべくビールを飲むことで勘弁してもらうが、しかし、相手が熱心に乾杯を要求してくるので、仕方なく少しずつ飲むが、そういう飲みかたはダメだとしつこく迫ってくる。
  • 金門が空になると、次は茅台(マオタイ)酒が出てきた。貴州省の高粱(カオリャン、蜀黍)を主な原料とする蒸留酒だが、飲んだ後に強い芳香が残るもり。この酒は、毛沢東がリチャード・ニクソン大統領をもてなし、周恩来が田中角栄首相をこの酒で接待したことで有名であるが、アルコール度数が高いので大変である。
  • 大分相手の中国人が酔ってきて、さらにしつこく乾杯を要求してくる。今度はお互い右腕を組み合わせて肩を寄せ合って飲む方法になって来た。その間にアワビの生きたものがそのまま出で来る。小さいが動いている。アワビのスープも出で来る。これは日本ではとても高くて食べられないもの。ここでしかない。贅沢だと思うが、何となく高級感が味わえない。シャコも生で出てくる。これはちょっと遠慮して茹でてもらう。これはうまいと思う。
  • ところで、中国人の家庭は台所が汚いというと思っていたが、勿論油を多く使うので床は油っぽい感じであるが、割合清潔である。奇麗に掃除されている。これは既に上海で訪問した家でも感じたことである。北京で訪問した家も同様であった。だが、ビールは飲み終えた缶を、そのまま床に捨てるだけなので、テーブルの周りはビール缶だらけになっていく。
  • 宴会が終わったのは18時過ぎで、3時間以上続いたことになる。日本人と話すのが初めてだからと言って、大宴会をしてくれるのであるから、反日感情は薄いのではないかと、酔った頭で考えているうちにホテルに着いた。
  • しかし、ここでも牡蠣について実態が統計的に捉えられず困っていたところ、財団法人かき研究所から資料をいただいた。それが「中国におけるカキ養殖の現状と展望」(水産増殖54号2008年11月 著者 李 琪・森勝義)である。この内容をご紹介することで中国の全体的な状況にかえたい。
  • 「中国沿岸には、およそ20種類のカキ類が生息し(Zhang and Lou 1956)、そのうちの近江ガキCrassotrea ariakensis、皺ガキCrassostrea Plicatula、マガキCrassostrea gigas、大連湾ガキCrassostrea talienwhanensisと僧帽ガキSaccostrea cucullataの5種類が主な養殖対象となっている。カキの貝殻が生息環境によって変化しやすいため、中国のカキ分類については長年から多くの争論がある。Zhang and Lou(1956)は沿岸岩礁に広く分布する小柄なカキを僧帽ガキと主張しているが、Zhao et al.(1982)は僧帽ガキと皺ガキが同種であると報告した。
  • 近年、分子遺伝学的研究により、マガキと大連湾ガキが、また、皺ガキと近江ガキがそれぞれ同種である可能性が示唆されている(Yu et al.2003)。さらに最近、Wang et al.(2004)は形態学的および分子遺伝学的研究により、近江ガキ(従来のC.rivulalis)をC.ariakensisとC.hongkongnsisに分けることを提案している。
  • 2002年における中国の海面養殖の総生産量は1212.8万tで、養殖面積は134万haであった。このうち貝類の生産量は殻付重量で965.2万トンで80%以上を占めている。その中で、カキ類の生産量は殻付重量(以下同じ)で362,6万トンで貝類全体の37.6%で、第1位である。(Table 1)。世界のカキ生産量は450万トンであり(FAO 2002)、中国の生産量は80%に達している」
  • この論文によると、当初疑問に感じた世界の牡蠣生産国のベスト10で(マガキ2000年実績、出典FAO YEARBOOK 殻付:単位トン)で中国が329万トンという数字をほぼ裏付けている。考えてみれば、渤海から海南島にいたる海岸線で牡蠣が養殖されているのであるから、こういうデータになるのかも知れない。ただし、牡蠣取材で世界各地を歩いた率直な実感からであるが、中国の生産量は他国と比較し、あまりにも多すぎるという気が正直にすることをつけ加えたい。