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サ ン タ カ タ リ ー ナ 島 の 牡 蠣

  • ブラジルは広い。サンタカタリーナ州にあるフロリアノポリス空港に着いたのは23時過ぎ、タクシーで空港からホテルに向かい部屋に入りすぐに寝た。
  • 翌朝の8時にジャイメ・フェルナンド・フェレイラ教授、LMM研究所(海の貝類研究所 LABORATORIO MOLUSCOS MARINHOS)サンタカタリーナ大学の機関の教授であるが、ロビーに来てくれた。54歳。この機関は貝類に関係した漁業の基本サポートを目指すために設立され、新技術、品質向上、生産量増加などを図るため適切な投資を行って、地元関係者と生産者との実体的な関係作りを続けてきて、今ではこのサンタカタリーナ地区を15年で国内最大の貝類生産地にした。ブラジルの牡蠣生産の90%をここで賄っている大牡蠣養殖地である。結果として、地元住民には新しい職と収入の確保、地方経済活性化、文化面でも充実、新しい環境世界をつくった。ここのような記載がLMM研究所パンフレットのまえがきにある。
  • 車の中で教授から話聞く。サンタカタリーナ島はブラジル南部3州の真ん中に位置するサンタカタリーナ州の州都フロリアノポリスに位置し、市はサンタカタリーナ島と南米大陸の両側に広がっていて、その間は橋で結ばれている。ちょっとややこしいがサンタカタリーナ州のフロリアノポリス市のサンタカタリーナ島である。サンタカタリーナ島は、ブラジルでは一番人口の多い島。日本は島国で離島も多く人が多く住む島は珍しく無いが、ブラジルは大陸の国、その中では例外的な存在らしい。人口は約30万人、総面積436平方キロ、南北に細長く全長50キロ、幅20キロの縦長の島。大小合わせると100以上のビーチがあるという。島の北端から南端に至るまで道路はよく整備されており、車で1時間くらいで縦断できる。緯度は大体日本の沖縄くらいで、一年中「初夏」の気候で、その上、景観がよいので、観光客が多い。観光客の多くはブラジル国内とアルゼンチン、パラグアイなどの近隣諸国の人達であり、当然ながら日系人観光客はまれだという。
  • b_04_01.pngサンタカタリーナの海
  • しかし、日本食ブームはこの島にも押し寄せているとのこと。昼食を予定している湖の周りに6軒の日本食店があるし、自分の息子は22歳だが、大の日本ファンで、家で日本食をつくってよく食べる。話の内容から推測すると寿司らしいが、週三回くらい食べるという。教授は昔は日本食が嫌いだったが、今は息子の影響で好きになったと笑う。勿論、食べてみて美味いとも思うし、ブラジルの料理と全く異なるタイプだからと補足する。息子はマンガ・アニメも大好きという。また、この島はバス便が不便のため二人に一人は車を持っているといい、教授の家族は四人だが、全員別メーカーの車で、教授はトヨタ車で300万円以上したが、荷物を運ぶことが多いのでトヨタ車を選んだ。息子は現代だとまた笑う。
  • さて、ブラジル国内牡蠣の90%を要する産地のサンタカタリーナ島。教授の研究所では、この島の養殖者に牡蠣種を提供している。何故なら、この海は温暖すぎて牡蠣が卵を産まないからである。水温は冬場16度、夏場30度になる。牡蠣は大半がマガキであるが、ブラジルのネィテブの牡蠣の種も提供している。教授はムール貝と牡蠣が別の研究所だったものを、1996年に統一した以前からこの研究所にいる。いろいろ懇談していると、教授は15歳から働いていたので定年が近いのだと発言した。ブラジルは年齢でなく働いた年数で定年が決まるらしい。また、最近、定年制度が法令で変わったともいうが、その内容が不明としても、定年後は研究生活から離れて、釣りを楽しみたいとの発言に、このような専門家が第一線を引退するのは「もったいない」と伝えると、教授はあっさりと「もう研究は十分した」と発言する。当方も研究者の端くれ、年齢は教授よりかなり高いが、年ごとに研究は深まって、次から次へと課題が出てくるので、教授の発言には意外な感がするが、この件はこれ以上立ち入ることはやめる。
  • サンタカタリーナ島の生産量、2007年貝類11,412t、前年比103%。牡蠣は2006年3152t、2007年1158t、2008年2206t。06年から07年に急減したのはこの海が汚染の疑いで調べているという報道がなされ、実際には問題がなかったが、この風評被害で急減した。しかし、今は戻っている。牡蠣の出荷先はサンパウロが多いが、全国に出荷している。ブラジルでは一年中牡蠣が食べられる。牡蠣はOSTRASと書き、島での牡蠣養殖業者は大小合わせて80人(社)。牡蠣は衛生局が定めた基準で出荷される。例えばリオデジャネイロには氷詰めで飛行機、午前取れたものが午後にはレストランや店頭に並ぶようにしている。
  • 車は急にカーブを切る。直線道路が途中で直角に曲がっている。理由はこの先が空軍基地のためで、これを迂回しながら走っていく途中の広大な原野を指さし、これは大学の土地だといい、農場の予定だが何もつくっていなく、ときおり実験場として使用している程度だという。さすがにブラジルは広いと感じる。このあたりから急に舗装なしのでこぼこ道となり、道は海岸寄りに入っていく。両側に連なる家並みを見ると、綺麗に整備され、豊かな感じである。教授に聞くと、この島の人たちは平均して豊かだという。それが各家の姿に表現されている。
  • 養殖場近くになると、道にハバナがついた木、その向こうに小舟、またその先に牡蠣養殖のブイが見渡せる。これが熱帯ブラジル養殖場のイメージに適切だと思う。
  • 養殖場に着く。ここは教授の教え子が経営しているところ。島の養殖場は全部が教授の指導下にあるのだろう。入口にLCMMと表示されている。これは研究所の種を養殖しているという証明である。教授の所属するのはLMM研究所であるが、ここにはLCMMとあり、Cが加わっている。表示されている看板の下に書かれた文字を確認すると、LABORATORIO CULTIVO MOLUSCOS MARINHOSとCULTIVOが入っている。CULTIVOとは「養殖」という意味なので、以前の研究所はこのような表示だったのだろう。
  • さて、牡蠣養殖は垂下式である。一本100mのレーンがブイに浮かんで、これが5mから25m間隔で並ぶ。大きいところは100本以上、小さいところで5本くらい。
  • 牡蠣を出荷し、牡蠣加工工場は環境問題から島の反対側の外洋に面したところにあるという。この島では工場建設は許可されない。観光客が養殖地を回るボートツアーも盛んだという。養殖地では、ちょうど船から牡蠣を陸揚げしている。若者四人が手作業。ここではすべて手作業である。干満差は1m。少ない。海が富んでいるから、8か月で出荷状態になる。出荷するまでに四回牡蠣をかごから入れ替える。8cmから出荷できる。基準は長さより深さである。形の良さとは深さである。機械で回して形を整えることもしている。10月末から12月初めは卵が多い。観光客が多いのは春から夏にかけて。サンパウロのレストランは冬の出荷が多く、夏場は減る。
  • この海は潮の流れが強い。北から南へ。南から北へと激しく動くので牡蠣のヘドロは流されていく。大量に生産しないことを方針としている。量をコントロールして、需要に見合った生産にしている。出荷価格は1ダース2.8レアル(約150円)。レストランでは3.5から4だろうという(約190円から210円)。後で街中のフロリアノポリス市場で確認したら、1ダース4レアルであった。なお、この養殖場での直接販売は1ダース5レアル(約270円)。サンパウロのレストランでは1ダース12レアル(約650円)。この後昼食に行ったレストラン、観光客相手のところだが、生牡蠣1ダース16レアル(約860円)、蒸し牡蠣は1ダース15レアル(約810円)、グラタン牡蠣は1ダース22レアル(約1200円)と高くなる。食べてみると癖のなく美味いが、塩辛い。海水のままで洗っていないのだ。教授がこの海は塩分が多いと補足してくれる。
  • 次にもう一軒の養殖場に行く。ここは従業員30名の大規模。4人の共同経営である。
  • 生産方法は
  • ① 1mmの牡蠣種を網箱に寝かせ一か月で1cmにする。
  • ② 次に6段かごに入れて一段に1000個くらい、3cmにする。
  • ③ 一段に200個入れて七段のかごで5cmにする。ここで大きさが異なる。
  • ④ 次に6段一段かごに5ダース入れ、3ヶ月で7から8cmになる。
  • ⑤ これを選別する。よいものは5ヶ月で出荷。平均7から8か月。大きさはベイビーが5から7cm、小が7cmから9cm、中が9cmから12cm、大が12cm以上
  • 養殖場の広さは37ha。牡蠣よりムール貝の方が利益は高いという。一連の牡蠣養殖での死亡率は20%から50%あるというから、ロスが大変なのだろうと推測する。養殖場の視察を終え、教授の研究所に行くと、日本人の美人女性が車で通りかかった。モニカ続木教授と紹介受ける。日本水産大学出身で魚をここで研究して7年いるという。この研究所は大学が土地だけ提供し、後の運用は自分たちで努力。カナダ、ヨーロッパ、メキシコ、イタリア、アメリカなどの外国や企業からの援助で経営している。なかなかできないことであり、教授はご苦労されているだろう。この研究所から教授がいなくなると、大変なことになるのではないかなどと考えながら、サンタカタリーナ島を後にした。
  • 今回のブラジル牡蠣実態、日本で多くの人から「ブラジルに牡蠣があるのですか?」という疑問が出された。当方も最初から熱帯国のブラジルに牡蠣は存在しないと思っていたが、調べてみると素晴らしい牡蠣が自生され、養殖され、研究されていることが分かった。 
  • ブラジルは過去の経済危機を乗り越え、21世紀は世界経済の中心になる可能性を秘めている。そうなった時に、再度、ブラジルに行き、ハミルトンさんやLMM研究所を訪問してみたいと思っている。

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