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カ ナ ダ ・ バ ン ク ー バ ー

シ ア ト ル の 街

  • シアトルからバンクーバーは近い。2006年5月、定刻にシアトルを出たプロペラ機は定刻にバンクーバーに着く。客室乗務員は大男が一人だけ。それがジュースと気持だけみたいなお菓子を一個ずつ配って歩く。手間をかけなく質素というイメージだ。
  • ホテルはロブソン ROBSON 通りの42階建て。フロントが日本人女性だったので、地図を貰っていろいろ教えてもらう。ロブソン通りを歩いてビックリ。ここは新宿と池袋と銀座を合わせた感じのところである。しゃれたブティックもあるし、高級レストランもあるし、カラオケもあるし、居酒屋もある。世界中の食べ物屋が軒を連ねている。牡蠣を食べ飽きたので、ギョーザとラーメン店に入る。完全に日本語の世界。しかし、中で食べているのは80%が日本人以外だ。これがバンクーバーの実態を示している。箸でラーメン食べている。箸を使うことは当たり前の世界になっている。箸は日本人専用ではなくなっている。使い方は皆さん上手である。バンクーバーは飲食店が多いので食事するのに不便はないが、あまり多くありすぎるという感じで、博多の中洲か札幌のすすき野という感じだ。
  • ところで、最近カナダ人が自慢することがある。アメリカの傘の中で、外交も経済もアメリカべったりのカナダだから「カナダ人とはアメリカ人でないこと」などと自嘲気味だったが、ブッシュのおかげで最近は「外国に行って、カナダ人の振りをするアメリカ人がいる」という話が真面目なジョークとして語られている。アメリカ人がイラク戦争の問題指摘を避けるためらしい。

生 鮮 市 場

  • バンクーバーの生鮮市場はグランビルアイランドにある。ここは空港から市内に入るときに通るグランビル橋の下、フォールス・クリークに突き出した小さな半島になっているところ。かつては工業地区であったが、工場移転に伴ってゴーストタウンしていたところを、70年代に再開発し、パブリックマーケットやブティック、レストラン、シアター、ガラス工房などが並ぶファッショナブルなレクレーションエリアとして蘇った。週末には活気が溢れる。
  • 勿論、魚屋もある。その店先で牡蠣を見ていると店員が寄ってきて親切に説明してくれる。そこでリュックを背負った中年おじさんが鮭の頭だけ買っている。頭だけ食べるのかと思って聞いてみると、カニを海で採るための餌にするのだという。バンクーバーの海では素人がカニを採れるのだ。これがカナダの実態である。自然をとにかく大事にする国民である。だから、日本みたいに付加価値をつけて、高いものを提供しようとする傾向は少ないのだ。リンゴでも小さくて安いものを好む。日本みたいに立派なリンゴで、ビックリするほどの高いものは好まないようだ。だから養殖についても疑問を呈する人が多いらしい。
  • sign_03.jpgバンクーバーの市場内
  • このグランビルアイランドにある四軒の鮮魚店を廻ってみた。それぞれ鮮魚を並べ、牡蠣も並べているが、その中で一番気に入った店は、LOBSTER MAN という名の店だ。ここに入って水槽に入っている牡蠣をみていると、女性店員が寄ってきた。ここは14種類の牡蠣がある。そのチャイニーズ系の若い女性、ゴムの前掛けをして長靴を履いている。
  • この店員にいろいろ聞くと、親切に教えてくれるし、なかなか詳しい。一番人気の牡蠣は何かと聞くと、MALPEQUE だという。これはカナダ東海岸のものである。次の人気は KUSSI とクマモト牡蠣だという。KUSSI はシアトルのオイスターバーで絶賛したものだ。ここの水槽は全部海水で、毎日海から運んできている。牡蠣は一日で全部売り切れるという。この女性店員、いずれは自分でオイスターバーを開いて、独立したいからこの仕事をしているのだという。目標を明確に口にするのは成功する秘訣だ。頑張るようエールを贈って店を出る。日本人も見習ってほしい。目標を持ち常に口にすることを。

オ イ ス タ ー バ ー

  • バンクーバーのオイスターバーに行ってみた。そこはイエールタウンである。イエールタウンは最先端のスポットとして人気が出ている界隈である。何年前かは寂れた倉庫地域だった。再開発されておしゃれな店や、ギャラリー、映像プロダクション、輸入家具、ハブやクラブが集まっている。
  • ここに Rodney’s Oyster House がある。ここでの案内は J. Conor Lowe 氏が説明してくれた。まだ若い。赤いTシャツ姿。今まで訪問したオイスターバーの中では一番ラフなスタイルだ。ここは全員がTシャツかラフなシャツスタイル。制服はないようだ。カナダらしいと感じる。店内は倉庫をそのまま使っている。天上の柱が表れている。開店して八年。投資会社が経営している。お金持ちが投資した会社の経営。Rodney’s とは最初にこの会社を創った人の名前。トロントにも別経営だが同様の名前の店があるという。
  • sign_13.jpgRodney’s Oyster House
  • J. Conor 氏は毎年7月29日に行われるこの通りのフェスティバルでの、西部カナダ地区牡蠣剥きコンテストで3位になった人物。1位も2位もこの店の人だと自慢する。優勝者の名前をつけてあるトロフィを見せてくれる。一位の BOB はアイルランドの世界大会に出場した。この通りでの牡蠣剥きコンテストは、20個の牡蠣を開け、それを皿に美しく並べるということと、その速さ競う2項目である。与えられる牡蠣は20個だが、審査は18個で行う。18個で1分20秒だった。80秒ということ。1個当たり4.4秒。世界チャンピオンのパリ・ゴンチェさんは1.7秒だから、大したことはないが、ここでは早いほうだろう。実際に剥いているのをみたが、板を台にしている。パリのエカイエとは大分技術差があると思う。しかし、けなしてはいけない。パリのエカイエは牡蠣剥きの専門職で世界一なのだから。
  • 仕入れ方法は、供給業者がいて毎日電話がかかってくる。グランビルアイランドの LOBSTER MAN からもかかってくる。バンクーバー島からも入ってくる。全部で8種類の牡蠣。kussi 3.25ドル、Gorge 2.5ドル、Fanny Bay 2.5ドル、Metcalf Bay 2.5ドル、Malpeque 3.5ドル、Mac’s 2.4ドル、そのほかにもあるが牡蠣のメニューはない。名前を書いた表示板が牡蠣を置いてあるところにあるだけ。このあたりのセンスもいまいちだ。だが味はうまい。特に美味いのは確かに価格どおりで kussi と Malpeque だ。人気があるといっていた LOBSTER MAN の女性店員が言っていたとおりだ。ということは自分の舌も世界的になったものだと思う。
  • この店では一週間に5,000個から7,000個売れるらしい。一週6日間として一日800個から1.160個。確かに多い。金曜日は1.200個を越すという。
  • いよいよ牡蠣が来たので、白ワインを頼む。持ってきたのは地元でなくオーストラリアのもの。がっかりする。どうしてカナダでオーストラリアなのだ、と内心怒るがこんなことで折角の牡蠣を味見する気分を壊してはいけないと、怒るのはすぐにやめる。
  • ワインを注いでくれたグラスを見て驚いた。グラスは水を飲むものと同じだ。センスがない。しかしなみなみとこぼれるほど注ぐ。後で分かったがワインはサービスしてくれたのだ。ソースは全部自家製。赤ワインベース、カクテルベース、チリベース、すごく辛いもの、ウォッカベース、タバスコが赤と緑、醤油に似たソース、全部で9種類。牡蠣の皿への並べ方は店内に陳列してある順番である。求める客には説明することにしている。
  • 牡蠣の料理もある。昼は Pan Fried Oyaters パン粉でフライしたもの。牡蠣フライと同じ。ただ牡蠣の形がそのまま出ているし大きい。味はなかなか。食べやすい。
  • J. Conor 氏はアメリカの大学で経済学と政治学を学んだという。父が外交官だったので七歳のときから パリ、ロンドン、NYと移って2年前にバンクーバーにきた。両親はオタワにいる。今は料理専門学校に通っている。ダウンタウンのクラシックフレンチだ。ここはこるコルドンブルーよりレベルが高く、NYのCIAに匹敵すると自慢する。夢は本を書くこと。今でも何冊かは書いた。コメデイタッチの自己経験談。売れていない。そこで先輩としてアドバイス。シェフとして成功してから書くと売れるというとその通りと頷く。分かっているのだ。オイスターバーも世界を廻ると、いろいろあって楽しい。

牡 蠣 養 殖 場

  • 牡蠣養殖場はどこに行っても不便な場所にある。当たり前だ。人が多勢住んでいるところは自然が侵されやすいのだから、牡蠣のような生鮮生き物は、自然のままのところで育ってほしいから遠くても仕方ない。
  • バンクーバーも遠いところにある。市内からタクシーで30分のホースシュー・ベイに行き、そこからフェリーでバンクーバー島に渡らねばならない。大きな荷物を持ってフェリー乗り場でバンクーバー島のナナイモまでの切符を買う。フェリーは2時間ごとに出ている。大きな船でナナイモまで1時間半で着く。
  • ナナイモから牡蠣養殖場のあるところ、それはファニーベイ FANY BAY だが、そこに行くにはバスで2時間かかる。車でもその程度かかる。だから、バンクーバーの市内から待ち合わせ時間を入れて、約半日は必要とする。牡蠣養殖場の視察は朝でないと潮の関係で難しい。ということは養殖場の近くに前泊しないといけないことになる。ところが養殖場の近くには大抵ホテルはない。そこで離れた町に泊まることになる。そのホテルを朝早く出発する。牡蠣研究者は早起きでないと難しい。これが研究するための最低条件だ。
  • sign_14.jpgバンクーバー島の養殖会社
  • 養殖場に向かった。宿泊したコートニーという町から88km離れている。タクシー代が75ドルもかかる。養殖場についてみると、事務所の前に牡蠣殻が積んである。白くなっていて鳥がついばんでいる。オーナー社長の GLEN HADDEN 氏に会う。腹の出たはげた人物。頭は剃っている。脳細胞がしっかりした精悍な感じ。案内された事務所の二階に上がったところが社長室兼応接室。コーヒーはでない。ここがアメリカと異なる。サービス精神が少ない。洗練されていない。
  • 二階に上がったフロアから、下の作業場が見える。何をしているか。レストランの要請で牡蠣剥きし、海水で洗って牡蠣殻に入れている。片方の牡蠣殻だけにしている。これをハーフシェル HALF SHELL という。レストランが開ける手間を省いている。一部の店に提供しているらしい。
  • 先日は日本からマニラ・クラム MANILA CLAMS について調べに来たという。マニラから来たからこの名前がついているらしい。このマニラ・クラムは北米・カナダで人気であるらしい。
  • さて、ここでの牡蠣の歴史は1920年代、この地に日本の材木業を含むいくつかの日本企業があって、そこの日本人が牡蠣をアメリカから持ってきた。それが自然に海で育ちはじめた。その牡蠣を採り過ぎてなくなってきたので、1950年代から稚貝を日本から輸入したのだ。FANNY BAY の名前は、オイスターで世界的に有名だと自慢する。味はきゅうりに似ているが、これは海水の中にあるプランクトンのよるという。
  • GLEN HADDEN 氏は1984年から経営し始めた。12歳から漁師だった。このところにあった会社を買った。買ったときに何もなかったので、5年かかって準備し、1989 年から営業開始した。今ではこのあたりで一番の会社だ。最初は家内と社員3人。一週間で3,000個採取する規模だった。今は定期社員が80人。一日 35,000ポンド生産。これを363日営業している。1.270万ポンド(576万キロ・5,762トン)このうち牡蠣は一日28,000ポンド。成功の基は稚貝から育てる方式にしたことだ。それまでは自然の海の牡蠣を採取していた。
  • 稚貝から育てる方式の説明に入る。壁のパネル写真にしたがって説明していく。何人にもしているのだろう。慣れている。まず、アメリカから産卵したばかりの卵ベイビーを買ってくる。写真は1,000倍に拡大したもの。400万個でゴルフボール1個分。これを20度の海水の容器に牡蠣殻いれて静かに14日間で育てる。しかし、これは海が静かでなくなったのでやめた。
  • そこで容器に牡蠣殻を入れ海水を入れる仕組みにした。その海水を20度にする。エアーも入れて流動化する。そこに卵ベイビーを400万個入れる。5日間。自然に温度を下げていく。牡蠣殻一枚に8個つく。それを海岸に並べ太陽に当てる。地面に直接あてないで筏的なゲタを履かせる。潮が引いたときにトランクで作業する。潮は16フィート、4.8mである。一年間で稚貝になる。これが今までの方法だった。
  • 今は違う。微細な牡蠣の卵と同じ位の牡蠣殻を砕いて、タンクに入れかき混ぜる。1個に1個つくようにする。マイクロスコープで見ないと分からないような大きさ。ボールペンの押す部分の大きさになったときに、12並んでいる屋内の容器に入れる。ひとつに50万個入る。海水を流してプランクトンを入れる。一日中食べられるようにする。前の方法では1年間で1インチ、2.5センチしかならなかったが、この方法は12週で1インチとなる。これを120個ずつ箱に入れて15段にし、筏のうえに置く。こうすると8ヶ月で生育する。以前は2.5年掛かった。売れる牡蠣になるのは新方式で14ヶ月。前の方式では5インチ、 12センチにするのに5年間。この方法で一気に生産性が上がって成長したのだ。
  • それとここの海は海水がよいらしい。その要因は山と太陽と雨だ。川も一杯ある。出荷先は8カ国。アメリカ、ヨーロッパ、アジアだ。シンガポール、マレーシア、中国、台湾。NYセントラルオイスターバーは15年間取引がある。生牡蠣を船で出荷する場合は冷凍、エアーの場合はフレッシュで。現在牡蠣だけでなくいろいろあって40タイプの商品がある。
  • 牡蠣の洗浄しているところで牡蠣を剥いて食べてみる。味はよい。どこでもフレッシュは美味い。巨大な牡蠣からクマモト牡蠣に近い小さいものまである。
  • ところで、剥き身も扱っている。その牡蠣剥きはすべて手で行う。それを剥き身の容器に入れる。それは女性。剥くのは一人で一日3,000個くらい。採用して3週間で剥き身に合うかどうかの適性が分かる。剥く量によって給料が変る。40ガロン(180リットル)から20ガロン(75リットル)一人当たり剥く。担当は15人いる。力は必要ない。中国人の女性が向いている。女性は半分。
  • 全体の構成はマニラ・クラムが30%、牡蠣剥き身が30%、生牡蠣が35%、その他の5%はマッスル、スカルプなどの新しい貝。また、全生産量の40%は他の養殖場から買っている。カナダブリティッシュ・コロンビア州BC内の養殖場から。別のところの牡蠣でも FANNY BAY 牡蠣として出荷している。カナダでは別に問題ないという。世界ではいろいろ制限条件も変化あるのだ。それが世界の実態だと改めて認識する。

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