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フ ル ト ン 市 場

  • ニューヨークの魚介類市場はフルトン市場である。グランド・セントラル・オイスターバーもここから牡蠣を仕入れている。ニューヨークの人々の胃袋を賄っている市場で、東京の築地と同じ位置づけであるが、2005年11月にヤンキー・スタジアムに近いブロンクスBRONXに移転した。
  • sign_24.jpgヤンキースタジアム
  • フルトン市場を見学するには、早朝に行かないといけない。したがって、ホテルの出発は3時半。一月のニューヨークの朝は特に寒い。その冷える道路を走って行くと、いくら「24時間寝ない街ニューヨーク」と威張っていても、中心から外れたところの道路はさすがに暗い。
  •  カーナビのない車なので、交通標識を頼りに走るしかないが、この暗さで標識がよく見えない上に、始めていくところであるから、地図を見ながら走るしかない。
  • 人通りは殆どない道を走っていくと、遠い向こうにトラックが数台止まっている。そこに行きドライバーに尋ねる。しばらく行ってまた尋ねる。何回か行ったりきたりしながら、ようやくフルトン市場の入り口に着いた。たどり着いたという表現が適切である。
  • 時間は朝の4時半。一時間要した。ドアを開けた外は寒い。今年のNYは暖冬だということで、雪はないが早朝の三日月だけが、寒空に浮かんでいる。その暗いフルトン市場の駐車場はトラックで一杯である。
  • sign_25.jpgフルトン市場

若 手 の 仲 買 人

  • フルトン市場を紹介してくれる人物は、まだ30代の若手社長である。仲買業を始めて9年。今やニューヨークタイムスで度々紹介されるほどの成功を収めている。
  • 大学院で哲学を学んでいたときに、夏休みはアラスカで漁船に乗ってアルバイトしていた。そこで気づいたことがあった。それは市場の仲買業者が皆同じアイテムを扱っているという事実であった。ここに気づいたことが今日の成功を導いている。何事も気づきが大事である。気づきがない人は成功が訪れにくい。
  • 二世代、三世代の人が多い中で新規参入であるから、普通のアイデイァでは大成功は難しい。気づきの第二段は情報の活用である。それもNYで最も権威のあるニューヨークタイムスの記者に売り込むということに挑戦したのである。ここが並みの人間と異なるところだ。
  • では、どうやってタイムスの記者に売り込んだか。それはこの若手社長のノウハウなので、ここでは公開しない約束なっているのでお伝えできない。
  • しかし、世の中がどのように進み、スピードアップした時代になっても、成功するためのセオリーは同じである。特別に変わったことをしたわけではないことを付言しておきたい。

ブ ロ ン ( ヒ ラ ガ キ ) 牡 蠣

  • ブロン牡蠣はヒラガキとも言い、フランスが原産地である。ところが、戸籍があるフランスでは今や少量生産しかできていない。フランスの牡蠣生産量は約14万トン。そのうちブロンはたったの2,000トンに過ぎない。だからバカ高い。
  • 平べったい身も薄い牡蠣、それがブロンだがマガキとは一味違うと特徴を持っている。味に鋭さとフランスの小粋さが混じっていて、その微妙なセンスともいえる感覚が食べた人に思い出を残していく。まして、フランスではなかなかお目にかかれないので、一度食べたらその味は忘れがたい。
  •  その思い出の味に、ここフルトン市場で再会できたのである。感動の一言。早速食べたいと若手社長に申し出てみた。返事は「どうぞ。味わってください」
  • 気温零下に冷房してある魚置き場、そこの箱の上に並べられた幾つかの牡蠣から、ブロンをとり、巧みに殻を開けてこちらに差し出してくれる。口にいれ、噛み、しばらくするとあのブロンの小粋な感覚が口の中に広がっていく。幸せな一瞬である。その一瞬を過ぎると、あの思い出の舌の両側にしびれるような、言い方を変えると独特の苦味が鋭く刺激する。鋭くといっても嫌みのあるものでなく、自然のもつ身体に必要な栄養分という感覚のしびれである。気持ちに素直に入ってくる苦味であり、これが世界の牡蠣愛好家に絶賛される所以だと改めて確認する。
  • さすがに世界の牡蠣中心地のNY、そこへ牡蠣を提供するフルトン市場は違うと思う。

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