073.jpg

HOME > ストーリー > 世界のかき事情 > スペイン > スペイン その2

街 中 の 牡 蠣

  • 好感度が増してきたタイミングに、街中にウオッチングに行く。外は寒いがPIGSといいわれる国の実態を見ようと歩いてみた。
  • マドリードの緯度は盛岡と同じで、海抜600m、夏暑く冬寒い。湿気は殆どない。スペイン全体面積は、植民地の島も含めて、日本の1.35倍の広さである。フランスとの境はピレネー山脈、ビスケー湾に向かってはカンタブリア山脈、ガリシア地方は縦にレオン山脈、地中海側に中央山脈の四つがあるように、スペインは山が多くヨーロッパ一の山脈国家といえる。また、イベリア半島の五分の四がスペインで、残りがポルトガルである。スペイン人は長生きで、女性は世界第二位という。人口は5500万人で、そのうち約500万人が移民といわれている。特にバルセロナでオリンピックが開催されたあたりから多くなったが、元々は出生率が下がったので、かつて植民地で言語が同じ南米から移民を受け入れたのである。その他の国としてはロシアと東欧からも移民が多い。なお、スペインへの観光客は年間5600万人で、2008年度世界第三位。一位はフランスである。スペインの世界遺産は41か所で世界第二位。
  • 最初に向かったのは市北部のCuatro Czmino地区にある魚専門店のPescaderiafペスカデーラ魚屋である。この店名はガルシア州コルーナ出身の女性名とのこと。1911年の創業。平日8時から15時まで。金土は11:30から20:00まで。牡蠣はヒラカキだけがおかれていて、一個1.2ユーロであった。産地は分からない。写真を撮りたいが店内撮影は禁止である。この店は、店頭・店内共風格ある立派な専門店で広いし、ショーイングが優れている。隣にレストランも経営している。店内には国王夫妻が訪れた写真がある。
  • 次に下町地区のCOATRO CAMINOS 四つの道が交差しているという意味であるが、その角のカルフールに入る。地下の魚売り場に行くと、冷凍ホタテが袋に入っておかれ、130gで3.5ユーロ、マドリード郊外で生産とある。料理方法として「冷凍庫から出して冷蔵庫に入れ24時間以内に調理」と書かれている。大きなホタテが一個冷凍されている。「110g。マイナス18度保存。調理済みで2.9ユーロ。グラタン風。玉ねぎと牛乳、小麦粉、バター、塩をつけ」と表示されている。生牡蠣は残念ながらない。
  • カルフールを出ると、すぐ近くに市場の看板が見えた。MERCADO MARAVILLAS メルカド マラビージャと書かれていて、意味は素晴らしい市場。市場内には100店くらいの店があって、魚、肉、野菜と洋服から装飾品雑貨まで。魚屋を数えると16軒ある。そのうち牡蠣がおいてあるのは二軒のみ。スペイン人はあまり牡蠣を食べないのかと思う。おかれているのはヒラカキで、一個2.4ユーロ。先ほどの高級店ペスカデーラ魚屋より随分高い。そこでどこからこのヒラカキは来たのかと店員に尋ねると、オランダとの回答に、ふーん、知らなかったオランダでも牡蠣が養殖されているのかと思いつつも、残念ながら、日程の関係でオランダまでは行けないのであきらめる。店員は月と木に100個入荷して、今日はもう7個しかない、売れたのだという。また、レストランに行けば一個5から6ユーロだろうという。ここで30年経営しているが、スペイン人は貝類より魚をたくさん食べるという。やはり、そうなのか。
  • 牡蠣はレストランが業務用に買いに来る。そういえば日本食のミカドもよく来るという。ミカドという日本食店には行く暇がない、これも残念である。マドリードでは残念なことが多い。牡蠣を買いに来るのはレストランだけでなく、個人客も勿論多い。この店の隣も魚屋である。ガリシア産のビックヒラカキ一個が1.8ユーロとあり、ひと箱に25個入って産地から入荷する。ここでようやくスペイン産という牡蠣に出合えた。ここはなかなか立派な市場だと思う。こういうところが街中各所にあるのがマドリードである。
  • 昼食は日本・中華料理店大吉に行った。イタリアからスペインに来たが、イタリアでは日本食を食べなかったので、ここで焼き魚定食を食べる。魚はアジ。結構うまい。定食は飲み物とサラダとデザートが付いてくるので、寒いがビールを飲む。支払いにJALカードを提示したら、急に女将さんの目が輝き、JALのことを熱心に質問してくる。その延長から「沈まぬ太陽」の映画から、山崎豊子小説作品の評価まで話が展開し始めた。これは話好きな女将だと思いつつ、ここで時間を潰しては街中ウオッチングができないので、適当なところで切り上げて、次に向かったのがスペイン最大のデパートEL Corle Ingles。スペインの最大流通グループである。
  • このデパートの地下は食料品売り場で、冷凍ホタテがあった。ガルシア産でホタテ貝の本場ものと書かれている。また、高級レストランで食べると同じ味とある。一個4.6ユーロ。賞味期限も明示されている。平牡蠣もあり、一個1.65ユーロ。これにはスペイン産との表示。
  • 次に向かったのは、2009年7オープンされた古い市場を再開発したところ。MERCAD DE SAN MIGUELサン・ミゲル店である。入ってみると客が多い。大繁盛していて、金土曜日は足の踏み場がないくらい入るという。入り口を入ってすぐにすし屋がある。スペイン人のおっさんが握っている。見ていると話しかけてくる。新橋と西日暮里の味千で修業したという。握り方を見ているとうまいし日本語も結構できる。隣は牡蠣専門店である。ここはフランス産のマガキ。店名はSORLUT DANIELで、マレンヌオレロンから持ってきている。DANIELという名はどこかで接したことがあると思うが、正確に思い出せない。マネージャーはフランス人である。どうしてスペイン産でないのかと聞くと、フランス人だからフランス産の牡蠣を扱っていると言う。なるほどもっともな理由である。バカみたいな質問をしたわけである。
  • ここのマガキは料金表ができている。大きさと味で価格が違う。
  • 1. FINE CLAIRE 味わいあり深い味。NO2の大きさが1.00ユーロ
  • 2. ESDECIAL DE CLAIRS 中間の味。NO3が1.2ユーロ
  • 3. ESDECIAL DANIEL SORLOT NO1が2.5ユーロ、NO2が2.00ユーロ、NO3が1.50ユーロ、NO4が1.20ユーロ。
  • 店長は忙しく動き回り、さすがにフランス産牡蠣はきれいに磨かれていると改めて感心する。
  • そのほかにもう一店の魚屋もあり、ここにはガリシア産のヒラカキが一個2.5ユーロとある。
  • 次に、ハイパーマーケットに行く。ALCAMPOアルカンポである。冷凍ほたて800g7.99ユーロ。貝殻付きのほたてで、五分間で料理でき、解凍してオリーブ油で炒めてくださいと書いてある。かにのすり身がある。SURIMIという表現でスペインに定着している。小さなヒラカキがある。一個0.69ユーロ。18個置いてある。珍しくマガキがある。それも生で。12個入り4.99ユーロ。北大西洋産と書いてあって、数えると10箱あるが、疑問はガリシア産と明示していないことである。スペインの牡蠣養殖産地はガルシア地方である。ですから、北大西洋産と書いてあるのはどこの産地なのか。どうしてガルシア産と明示しないのか。これがマドリード市内のウオッチングで最大の疑問だ。この疑問は現地のガルシアで確認するしかないであろう。
  • ガ リ シ ア 州 ビ ゴ 漁 港
  • いよいよこの疑問を解決するためガリシア州のVIGOビゴへ向かった。マドリードから約50分のフライトである。ガリシア州は、スペイン17の自治州の一つで、スペイン北西部にあり、大西洋に向かってひとり張り出した地方で、ア・コルーニャ県、ポンテベドラ県、ルーゴ県、オレンセ県の4つの行政県に分かれている。州都はコルーニャ県内にあるサンティアゴ・デ・コンポステーラ。
  • この地は極めて古い花崗岩の浸食地盤に、アルプス褶曲(しゅうきょく)(堆積が当時水平であった地層が、地殻変動のため、波状に曲がる現象や、それが曲がっている状態)の余波で断層が生じ若返ったもの。数か所で標高は2000mを超えるが、平均海抜は500mで断崖がいくつも海にせり出して幅の狭い美しい景観が見られ、リアス式海岸の発祥地というのも頷ける。ガリシア州はスペイン随一の漁業地帯(タラ、鯖、イワシ、ニシン、カツオ、イカ、タコ、貝類など)の宝庫。
  • 主な産業は漁業、食品加工業、製材業、造船業、内陸部での農業(とうもろこし、ジャガイモ、ライ麦、ブドウ、ワイン、食肉業など)。気候は海洋性で温暖(年間平均13度C)、寒暖の差が少なく雨が多い。昔は海外、特に中南米に移民するガリシア人が多く、有名人ではキューバのカストロ首相の両親がガリシア出身。このようにガリシア人の名字にはカストロ姓が多い。余談だがカストロとはスペイン語で、巨岩、断崖、古城跡などを意味する。
  • このガリシア州ポンテベドラ県にビゴ市が位置する。人口30万人であり、ガリシア州最大の都市で、スペイン第一の漁港があり、大西洋航路の主要な港町、つまり南北アメリカとヨーロッパ大陸との海の架け橋の役目を果たしているのがビゴ港である。
  • 国際クルーズ船は年間100隻も入港し、2007年度は前年度比15%増の15万人のクルーズ観光客を迎えている。また、2007年のビゴ港の船の総入港量は5,500万トンで、前年度比で5%増加している。ビゴ港内に設置された冷凍用倉庫は65万㎡に達し、国内はもとより、世界的にもトップクラスといわれているように、14,000haの広さを持つリアス式ビゴ湾内にある同港は、シエス諸島とモラソ半島に守られた天然の良港で、古く歴史的にはケルト民族時代から港町として記録に残っている。つまり、ビゴはケルト人によって造られた町なのだ。
  • 余談だがビゴ市のサッカー球団名はCeltasセルタス、スペイン語でケルト民族の意味となる。かつては名門バルサやレアルマドリードを倒す力があったが、残念ながら4年前から2軍に落ち、強かった昔の面影はない。ビゴ港は中世のバイキング時代にコルーニャ港と共に栄え、コロンブスの新大陸発見後、中南米との交流が活発になり、16世紀後半にはスペインが誇った無敵艦隊の主要なベース基地にもなった。民間伝承によると、ビゴ湾の入江の奥底には18世紀初頭のフェリペ5世時代の商船の財宝が数多く眠っているとか・・・。
  • このビゴ港に魚市場がある。ビゴ港湾内部にあるので国が所有しているが、ビゴ市が委託されて運営管理している。現在74社が加盟していて、2007年度の水揚げ高は80万トン。前年度比でやや下回ったが、総売上高は2億1600万ユーロで2006年よりも7%増加した。魚介類では、鱈、鯖、鰯、鰊、鰹、烏賊、蛸、貝類が多い。
  • ここビゴを含むスペイン北西部の海岸は、深いリアRia(入江)が多く、リアス地方と呼ばれているように、土地が沈降してできた「沈降海岸」の典型である。元祖リアス式海岸で、ビゴの魅力は何と行ってもこの海岸線にある。
  • ア・コルーニャ周辺の海岸線がRiasAltas(高い入江)と呼ばれるのに対し、リアス・バハスRias Bajas(低い入江)と呼ばれるこのあたりの海岸線は、緑の山々に映えて、美しい景観を織りなしている。ビゴ湾には無数の黒い小さな船が浮かんでいる。これはバテアスBateas(箱船)と呼ばれ、ムール貝の養殖に使われている。牡蠣の筏も多くみられるとガイドブックにあるが、実は、ビゴ湾では牡蠣養殖よりは、ムール貝養殖の方が多いらしい。これも疑問である。これだけの良港とリアス式海岸に恵まれているのだから、牡蠣はかなりできると思われるが、少ないとは。これも究明しないといけないと思う。なお、ビゴ市の旧市街にベルベス地区という今でも漁師達や船員たちの住む家並みがあり、その隣にペドラ(岩)市場があって、そこでは漁師のおかみさん達が屋台などで生牡蠣を売っている。これはビゴならではの光景と思う。
  • 魚市場は、旧市街のヘルベス地区にある。BERBES PORTO DE VIGO LONXA DE ALTURAと看板にある。BERBESは市場がある場所名。LONXA DE ALTURAとは競り市場という意味。ビゴ市場は大きい。長さ300m、幅50mくらい。既に述べたように74社が入っている。ふと見ると、市場にカモメが入ってきて、セメントの床に散乱した魚を食べている。外の車の上にも俺の車だと言わんばかりにカモメが一羽ずつ止まっている。壁を見ると、それぞれの魚価格が表示されているが、これとは関係なく競りで価格が決まる。魚は月から金まで早朝2時から運び込まれ、6時過ぎから競りが始まり、8時ころに終わる。
  • さて、競りが始った。10人以上が各場所でそれぞれ「ここはこういう魚があるぞー」と叫び、集まった仲買人や専門店・スーパー・地方へ売りに行く行商の人たちに売り出す。価格は高いところから始め、0.05ユーロずつ下げていく。スペインは高速料金も2.95ユーロであるように、競りも1.05ユーロから始まり、0.05ユーロごとに叫ばれていく価格に妙な感じを持つが、それはこちらの勝手な感覚にすぎない。市場の競りに参加している人たちに何ら違和感はない。さて競りだが、スズキが25ユーロから始まり、どんどん下げていくが値がつかず、13.90で一人のジャンバー姿の男が競り落とし、そこに自分の名前を箱に入れる。印刷されているから店名だろう。係りがそれを見て紙に記録していく。これが各所で行われるのであるから、それはうるさい。マイクの声が高い天井の市場内に反響して耳に騒々しい。大きい魚のところは男が多く、小魚部類は女が多いようである。それがどうしてかは分からないし、目の前におかれている魚の名前を聞くと、ルビオと教えてくれるが日本名は分からない。赤いのは金めだいか。
  • 市場内にいる人数は500人は超えると思う。とにかく大勢で活気がある。体が急に寒くなったので、どうしたのかと思って見回すと、競り落とした魚を運ぶため、外に通じる扉を開いたままになって外気が入り込むからだ。体も冷えたし、市場内はうるさいし、そろそろホテルに帰ろうとドア外に出ると、まだ暗い中、トラックではない普通車を改造したと思われる中型車、その後部扉を開けたまま、魚を積み込んでいる女性に出会った。何種類も積み込んでいる。しばらく見ていたが、どうも魚の数量が少ないのに、種類が多いので、この積み込みは何のためですかと聞いてみると「山の方に売りに行くのですよ」とニコッと答えてくれる。そうか魚の外商か。山国のスペインだからの商売かと納得する。
  • s_02_01.png魚行商の車の中

123