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統 営 市

  • このように牡蠣垂下式水産業協同組合で親切な対応を受けたが、まだ実際の牡蠣養殖現場を見ていない。そのことが気になっていたので、何回かこの組合と連絡をとって、ようやく2010年3月末に、再び統営市を訪問した。組合の事務所の前に立つと、昨年見て面白いと思ったポスターが依然として貼ってある。改めて見直す。
  • 今日は常務が出張で留守なので、担当の方から話を聞く。事務所内は部門名を表示したものが天井からぶら下がっている。「流通販売課」「指導課」「総務課」の三部門である。その「流通販売課」の担当者が対応してくれた。昨年聞き洩らしたこと、牡蠣垂下式水産業協同組合の組織であるが、組員は844名で役員・職員が56名とのこと。牡蠣養殖海域面積は858か所で4947ha。この海での養殖牡蠣は、稚貝から一年半で出荷する。韓国人は小さい牡蠣を好むので、大きくしない。天然稚貝は80%、人口が20%。三倍体の人口牡蠣の方が見た目に美味しく見えるという。民間の企業から種を買う。ここ数年増加傾向。価格は二倍高いが育つ期間が短く、早めに出荷できる利点がある。
  • 出荷時期は10月から6月まで。今日は競りがある。12時10分と18時。12時10分は全体の20%程度。後で見学することにする。具体的な垂下式の説明を受ける。海底に打ち込んだロープ、間隔は100mでその間に7個の発泡スチロールブイを付け、そのブイにひもで牡蠣をつるす。ひもの長さは大体6.5m程度。ひもに付ける牡蠣と牡蠣との間は20cmの間隔。
  • このような内容を聞いているところに、船の用意ができたとの連絡があり、いよいよ海に出るため波止場に向かった。垂下式の現場で、昨年写真撮影できなかったものだ。11時25分に組合の船で出港した。船の中はストーブがあって暖かい。少し走ってすぐに着く。本来はもっと沖合にと思ったが、こちらの取材時間の関係で近場の養殖場にしていただいたのだ。
  • 船が停まって牡蠣を引き上げた。若芽や貝がびっしり着いている。海のプランクトンが豊富なので、つきやすいのだという説明。牡蠣を剥いてその場で食べる。塩味が効いている。日本の海より塩気が強いらしい。噛みしめると後味が良い。うまい。さすがに獲り立ては違うと今回も思う。この海の牡蠣は殻が薄く、身も薄く、成長は早い。日本の牡蠣のようにぷっくらしていないが、このような牡蠣を韓国人は好むという。食べた牡蠣は稚貝から一年経過もの。戻る途中でみると、岸壁のすくそばでも牡蠣の養殖をしている。
  • 海から組合の建物に戻ったのが12時。既に一階の競り場には車がドンドン入って来て、牡蠣を入れた箱が積まれていく。箱の中には大きなビニール袋に入った10kgのむき身カキが入っている。車が競り場に入る前に、女性が新鮮度を測る機械でチェックする。そのような動きが始まったところに、赤ジャンパー姿の中年女性と、赤ではないがジャンパー姿の男性が大勢集まってきて、集まった牡蠣を見て回っている。仲買人だ。この仲買人が、いつの間にか団体写真を撮るための使われるような、段差付きの梯子段に立った。全員手帳を手に持っている。仲買人の向かいには、先ほど組合事務所で説明してくれた「流通販売課」の担当者がマイク持って立つ。いよいよ競りが始まった。
  • sign_k02.png牡蠣の競り風景
  • 一人の男が箱の中から牡蠣袋を取り出し、どこどこの牡蠣で数量はいくらだと叫ぶ。そうすると司会者が「オーオー」と長く叫び出す。そのオーオーが停まったとき、手を挙げ価格を叫ぶ。買った人が決まったのだ。司会者の向かいに立っている仲買人は、右手を左胸にいれ、三本指で司会者に買いのシグナルを送る競りである。
  • 競りの開始は12時15分で、終わったのが25分であるから、たったの10分で30業者が持ち込んだ牡蠣が全部捌かれたのだ。早い。後は18時から。この方が多く70業者から80業者が来るという。その場合はこの一階の競り場が牡蠣でいっぱいになる。平均落札価格は10kg5万wで、今の時期は最盛期の半額という。ということは最盛期には10kg100,000wだから、1kgが10,000wということになる。因みに、すぐ近くの牡蠣を売っている店を覗いたら、1kgが11,000wだったので、競り場の価格より倍である。
  • 次に、食事に行こうと誘われ、新しくできたレストランに向かう。3月24日オープンの、高台で海が一望できる絶好の場所である。ところが、入り口で驚いた。今日は12時から14時まで貸切りでいっぱいと書いてある。バスが4台も駐車場に並んでいて、一人暮らしお年寄りを、ボランティアの人たちが一日観光に招待したもので、200人くらいはいる。
  • 普通では断られるが、組合の課長がいるので、特別に奥の間仕切りされた部屋に通される。このレストランの名前を日本語に訳すと「牡蠣・海鮮 お膳」である。すぐ眼の下に「参参物産」SAMSAM MULSAN CO.LTDと書かれた建物があるが、この会社が経営している。その向こうに赤い屋根の建物が見える。あれは牡蠣剥き場だと説明あり。全員おばさんたちで、一日一人10万wになるという。良い稼ぎだ。「参参物産」は全国に牡蠣の販売、宅配も行っている。このようなレストランを経営するのが社長の夢だったと説明受ける。
  • 参参物産の息子が出てきた。日本語ができる。日本に二年間研修に行ったので。二年程度でこれだけ話せれば立派だとほめる。さて、間仕切りされた個室のテーブルに、牡蠣が出てきた。最初は殻付き牡蠣を蒸したもので、既に殻は開いているので、そのまま食べられる。次に牡蠣を卵焼きで包んだもの、更に続いて出てくる。牡蠣ハンバーグ、キムチ牡蠣、グラタン牡蠣、生牡蠣、むき身の生、牡蠣炒め、すごい。これだけ牡蠣料理が並ぶのは初めてだ。日本ではないだろう。世界でもないだろう。
  • 牡蠣だけでなく、様々な貝類、ホヤに味がそっくりだが小さい貝も出てくるし、すしも出され、ブルゴギ肉鍋とサラダ、その他よくわからないが漬けものとか、海草類が多種類出で来る。飲み物はキイチゴ酒。度数は15%ある。牡蠣には白ワインがよいが、キイチゴ酒もなかなかいける。韓国人はワインより焼酎を飲むのが多いが、今日はキイチゴ酒を店から推薦され飲んだ。甘い味である。
  • そこへ、またもや運ばれてきたのが、小さいトマトと、冷えたシナモン味のスープと、もう終わりだと思ったら、ご飯と牡蠣スープとキムチなどの漬けものが出てくる。これでお腹がいっぱいになって大満足である。そこへこのレストランの奥さんが挨拶に出てくる。この奥さんは見覚えがある。先ほどの競り会場にいた仲買人である。
  • 韓国では10年前くらいから牡蠣を多くの人が食べるようになったという。それまでは高級品、つまり、価格が高く、一般的な食材でなかったのである。この動きに統営市の牡蠣祭りなどの国民へのPR活動が寄与しているであろう。今やソウルでみたように、牡蠣専門店チェーンが育っている。残念ながら日本にはこのような形態店は存在しない。牡蠣は韓国人の方が一人当たりで食べていると思う。改めて、そう実感した韓国の牡蠣事情である。

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