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韓 国 自 慢 の K T X 新 幹 線 で

  • ソウルから釜山に向かった。韓国自慢のKTX新幹線で。これはフランスのTGVを導入したものだが、座席が狭いというのが第一印象。驚いたのは改札が必要ないことである。乗車券は必要だが、それを一切改札口で見せることもなく、指定されたホームの列車に乗るだけ。出口でも乗車券提示は必要なし。
  • その理由は、すべてコンピューターで管理していて、車掌が端末を持って歩き、購入されていない座席に座っている人をチェックするシステムであるから、出入りの改札の手間は要らないのである。これは合理的である。
  • その上、新幹線のホームと在来線のホームの間も自由に行き来でき、何ら途中での検問はない。これらのシステムはコストを下げさせることになっているだろう。
  • 釜山では、南浦洞ナムボドン・チャガルチに行く。魚市場である。豊富な種類と魚が生きたままの新鮮さに驚く。さて、夕食は釜山名物の「テジクッパ」を食べるため、釜山一の繁華街・西面ソミョン一角の「テジクッパ通り」と呼ばれるストリート、専門店が立ち並び、呼びこみしている一店に入った。「テジクッパ」の「テジ」は韓国語で「豚」という意味で、豚骨を丸1日近くかけてじっくりと煮込み、ダシを取ったスープに別茹でをした豚肉、ご飯を加えて、好みの薬味を入れて食べる。
  • sign_k03.pngテジクッパ
  • 今でこそ釜山名物と言われているテジクッパだが、実はそのルーツは北朝鮮にあるらしい。1950年代に起こった朝鮮戦争中に、釜山に来た北朝鮮の人々が、この地で広めたのが始まりとのこと。
  • 「釜山に来たならテジクッパを食べてみたい! 」という人が多く、また、価格は5,000wと安く、お腹一杯食べられることから、韓国人にも人気である。テジクッパ主材料の豚肉は、ビタミンBをはじめ、タンパク質など豊富な栄養分が含まれ、韓国で豚肉は疲労回復や体力増強を促してくれる食材として多くの料理にも使われ好まれている。
  • このテジクッパを食べる時に欠かせないのが薬味だ。薬味の定番はニラやアミという小エビに似た海産物の塩辛、玉ねぎ、ニンニク、青唐辛子に白菜キムチとカクテギ(大根キムチ)。また、店によっては薬味に加えてそうめんが出る。テジクッパのスープ自体は淡白な味で、薬味を好きなように加えて食べることになる。
  • さて、テジクッパとビールをオーダーする。だが、回りを見るとビールを飲んでいる人誰もいない。小瓶のグリーンラベルにC1とデザインされたものを飲んでいる。気になるので、あれは何ですかと聞くと、焼酎という。度数が高いのかと尋ねると、そんなことはありませんよというので注文した。一本3000w。
  • C1が運ばれ、ボトルをみると稀釈式焼酎と書いてある。焼酎を韓国語でソジュといい、地域ごとに地元ブランドが愛飲されている。釜山ではデソン酒造のシウォンソジュ(C1ソジュ、시원 소주)が人気。韓国国内シェア約50%を占める「眞露(ジンロ)」は日本でも有名だが、その他地域ごとにいろいろあるが、韓国で流通している焼酎のほとんどは「稀釈式」とよばれる方法で作られている。
  • 発酵させた米や麦などの原料を連続的に蒸留し、高濃度のアルコールにしたあと、水で適度なアルコール度数まで薄める。日本における分類では、甲類焼酎に相当し、以前は25度ぐらいの製品が多く流通していたが、最近は飲みやすさが重視され、20度前後の焼酎が主流となっていて、ソジュの飲み方はストレートが一般的。
  • 日本のように水やお湯で割ることはもちろん、氷を入れて飲んだりもしない。ソジュは、甘味が強く辛い料理の多い韓国料理によく合うとされ、また、よく冷やしてから飲むため口当たりがさっぱりとしており、焼肉のような油分の多い料理とも相性がよいと親しまれている。
  • さらに、韓国で流通している焼酎のほとんどが小瓶である。いわゆる2合瓶360mlである。韓国にはボトルキープという習慣がなく、さらに何本も焼酎の空き瓶を並べながら飲む行為がウケたため、小瓶が一般的になったともいわれていて、飲み終えた焼酎などの空き瓶を片付けることなく、帰るまでそのままテーブルに並べておく。この行為はほかのテーブルに向けて「自分たちはこれだけ飲んだ」とアピールするためらしいが真偽のほどは分からない。
  • いずれにしても、テーブルに運ばれてきたC1稀釈式ソジュを飲み、様々な薬味をたっぷり入れて食べたテジクッパは最高であった。名物にうまいものありである。折角入ったテジクッパの店であるから、隣席の人に牡蠣の食べ方を聞いてみた。韓国の人は大体親切であるからよく教えてくれる。
  • 答えは「刺身で食べる」といもの。牡蠣の刺身かと確認するとそうだとの答え。ちょっと意味が分からないので、詳しく聞いてみると、むき身牡蠣を市場で買ってきて、水洗い、それも塩水で洗い、それをたれにつけて食べる。たれは唐辛子、みそ、水飴、酢、キムチの素を混ぜたもの。つまり、刺身ではなく牡蠣のむき身をそのまま食べるということが分かった。
  • 次に、牡蠣キムチの作り方も聞いてみると、白菜二三枚の間に牡蠣を入れ、そこに大根とネギと人参と、せりやなしなどを千切りにして加える。もちろん、キムチだからキムチの薬味を入れる。牡蠣は腐りやすいので一週間くらいの間に食べるという。「テジクッパ通り」は美味しくて、牡蠣情報が得られ大満足であった。
  • 2009年2月の朝9時、釜山から約150㎞離れた、慶尚南道の統営市トンヨン TONGYONG SHIに向かった。牡蠣養殖場の視察のためでだが、統営市に向かう道は山ばかりで、トンネル道路が多い。韓国は山国だということが分かる。
  • 到着した統営市と、隣の巨済市コジュ一帯の海に散らばる小島は、閑麗海上公園と呼ばれる国立公園である。文禄・慶長の役(1592年から1598年)の折、亀甲船コブクソンを使って、日本軍勢を破った救国の英雄、忠武公・李舜臣将軍ゆかりの場所がところどころに残っていて、統営市は一時期忠武公にちなんで忠武チュンムと名付けられていた。市役所の建物も、この記念に亀甲船を形とった屋根となっている。街道筋のガソリンスタンドの屋根にも亀甲船がある。
  • さて、統営市に入ってから何回も道を尋ね、ようやくたどり着いたところが海に面した牡蠣工場である。もう既に11時半になっている。これ以上道がないというドン詰まりの場所。建物は大きい棟が二つある。事務所はどこかと探していると、海側に面した倉庫と思える扉が開いて、一人のお婆さんが出てきた。少し腰が曲がっている。事務所はどこですかと聞くと、黙って階段の上を手でさす。上がっていくと一人の若い女性が「何ですか」という無愛想な顔でこちらを振り向く。その女性以外は誰もいない。
  • 用件を伝えると分かったと、応接室に案内される。大きな部屋だ。ただし殺風景。よく見かける田舎の中小企業の会社スタイル。待っていると中年の男が入ってきて、名刺交換。顧問、英語でADVISORとある。住所は慶南 統営市 道山面 法松里とある。
  • 会った途端に、忙しいので時間が取れないという。現場を持っているので忙しい。全部
  • 説明するには三日間かかるという。そう言いながら質問すると答えだす。会社案内はないかというとコピーでファイルしたものを持ってきたが、これは1997年に設立した会社で、2007年に倒産したところ。今の会社は2009年1月に再開した新会社。先月開始したばかりだ。それでは忙しいはずだ。顧問となっているので、どこで牡蠣養殖技術を学んだのかと聞くと、親からと大学でと答える。このあたりで育ったので自然に身につけたとも補足する。
  • 生産量は生かきが10月から2月で400トン、大きいものは日本へ輸出、小さいものは韓国。3月から4月にはむき身を120トンに他の漁師から仕入れて200トン、合計320トンから350トンを冷凍し、95%日本へ輸出する。
  • 4月中旬から6月上旬まで蒸し牡蠣と干し牡蠣をつくる。干し牡蠣は30%、缶詰が70%。10月から11月出荷する牡蠣は二年物、それ以外は一年物。従業員は牡蠣剥き工程で100人、冷凍工程で70人。
  • 種カキは天然ものが90%、人工は10%。種をつける方法は、ホタテと牡蠣殻の二方法ある。ホタテのほうがつきにくいし、ここは波が強いので牡蠣殻のほうが固くてよいとの説明。養殖法は垂下式であり、牡蠣の流通ルートは漁師からセリ場に出すルートと、直接取引でスーパーとか専門店である。統営市の郷土という牡蠣専門店と直取引しているという。昼食に行くため、この店の電話番号を教えてもらう。
  • ところで、コピーされたパンフレットが目の前にあるので、それを開いてみたら、日本の会社名が書かれている。そこでこの会社に輸出しているのかと尋ねると、慌ててこちらの手許からパンフレットを奪い取る。もう見せないといい、時間的にもう説明することが無理だといい、遠くから来たのに昼食も出さないことをお詫びするという。とにかく早く帰ってもらいたい雰囲気。海の養殖現場の写真を撮りたいというと、ダメという。海の景色だけでも撮りたいというが、これもダメ。これは困ったと発言すると、では、組合を紹介するからそこへ行けといい、組合に電話して3時の予約をしてくれたので、仕方なく失礼する。一応、外の車のところまで送ってきて頭を下げたが、これは何かあるなと思わせる対応で、このようなことは世界中取材して一度も経験したことがない事態であった。疑問が残る事件だった。
  • 昼食は、教えてもらった牡蠣専門店「郷土」へ行った。ロッテスーパーの近くで、結構店内は広い。入口に有名人の写真がたくさん張られている。まず、牡蠣焼きを注文する。すると牡蠣は身からとったもの、つまり、むき身を焼くだけという。殻がついていないもの。殻つきの牡蠣はないのだ。その理由を、主人が大声で熱心話しだす。「殻つきは海の潮が入っていて、塩分が強いので水ばかり飲む。だからむき身のほうが良い」とのことなので、むき身の牡蠣焼きと牡蠣ごはんを注文する。
  • 韓国料理は、小皿がたくさん出てくる。これは韓国の習慣。ニラ・ニンニクも生のまま出てくる。さて、出てきた牡蠣を見てびっくりした。すごい量である。三人分を注文したのだが、どう見ても小粒だが50個はある。牡蠣ご飯にも10個は入っている。これは玄米で、薄味でうまい。牡蠣焼きは全部食べきれずに、残念ながら残す。全体的に薄味でうまい。隣のテーブルに四人組が座った。男性三人に女性一人。二人が焼酎飲んでいる。話しかけてみた。「どこから来たのですか」「ソウルの近くからです」「どこへ行くのですか」「外島です」。外島とは島全体が個人所有で、手入れに行き届いた公園で「冬のソナタ」の最終回に登場したことで一躍有名になったところ。わざわざソウルから来るのだ。
  • さて、支払いであるが、三人でお腹いっぱい食べて38,000w。2500円である。馬鹿安だ。うまいし栄養あり大満足。
  • 昼食後は、港に面した中央市場内を歩く。魚中心に野菜もたくさん並んでいる。牡蠣はビニール袋に入っているものと、ざるに入れたものと、殻つきもある。むき身はこの道路上の水道水で洗って1㎏と0.5㎏に分けている。10000Wと5000W。人が多く市場内は活気がある。日本では見られない風景である。
  • さて、3時になったので、牡蠣組合に行く。一階は競り場で事務所は二階にある。立派な建物で広い。二階では銀行の隣にある。組合入口に面白いポスターがある。Man Eart for Womanと左にあり、右側にWoman Eart for Manとある。「男は女性のために食べる。女性は男のために食べる」率直な表現に韓国らしいと感じる。
  • sign_k2_01.png牡蠣組合のポスター
  • 応対してくれたのは牡蠣垂下式水産業協同組合の常務である。とても親切である。先ほどの牡蠣養殖会社のアドバイザーとは大違いである。ホッとする。資料と共に下関市の日刊みなと新聞(2008年4月4日)をいただく。この新聞に統営市の牡蠣祭りの模様が一面に大きく報道されている。
  • この記事の概要を紹介する。
  • 「慶尚南道・統営市は韓国産牡蠣の発祥の地。1960年に日本からな種苗と技術を導入して養殖を開始した。この海域は、閑麗海上国立公園の中にあって、厳しく開発が規制されているため周辺に大きな工場がなく、韓国の中で最もきれいな海岸といわれ、米国FDA、日本の厚労省の承認も得ている清浄海区とある。昨シーズンの生産量は、前年比7%増の42000トン(むき身ベース)、金額は12%増の1508憶1000万ウォン(約150憶円)と、一昨年、昨年に続き数量、金額とも増えるなど、着々と消費拡大活動は成果を上げている。PR活動としては、軍隊など国の要人を対象にした試食会も開催し、今後は一般兵士向けの料理メニューも提案していく計画。昨年は同組合が協賛して牡蠣専門の料理本を制作。牡蠣をつかった炊き込みごはんや寿司、雑炊、スパゲティ、フライなど40種類以上のレシピを掲載するほか、栄養面など牡蠣の知識についても紹介している。輸出にも力を入れている。昨年は総生産量の32%を27カ国へ輸出した。主に生鮮、冷凍品は日本、缶詰が米国、乾燥品がアジア。安全・安心への取り組みでは、最新の検査機器を備えた事務所の研究室で独自検査を実施。海域ごとに海水と牡蠣をサンプリングし、腸炎ビブリオや赤痢菌などの細菌検査を行う」。
  • この記事の牡蠣専門の料理本をいただいたが、これは立派である。世界中に通ずるほどだと思う。牡蠣養殖方法について説明受ける。一番多いのは垂下式で、簡易垂下式もある。網に入れて海中につくった棚に乗せて養殖するもの。これは写真で見る限りフランスと同じである。少しだが投石法もある。海中に岩を置き、そこに植え付けるもの。これはソウルで聞いた全羅南道の高興と同じだと推察する。
  • 養殖場は国から漁業権を受ける。10年契約で更新する。販売ルートは50%が競り場から卸市場へ行き、そこから街の市場の店に行く。20%は直接個人とか店に宅配する。30%が加工し袋詰めしスーパーやデパートへ。ブランド化政策は積極的に進めている。この地区の牡蠣は、味がトクトクと香りが深い。島が多い多島海だから自然に恵まれ、水深が適当な深さである。海水もきれいで栄養があるので魚はよく育つ。海は毎週、毎月調査している。この地区は工場がなくきれいな海。国基準に基づく衛生管理を行っていて、米国FDA基準でも行っている。組合は、養殖業の方々の権利を保護し守っている。価格維持の政策をとっている。広報活動に毎年5億wかけている。牡蠣に合う韓国ワインはMAJUANGだという。これはソウルのロッテデパートでも同様だった。
  • 終わって次に常務の上司である常任理事に会う。向こうから本を一冊持ってくる。日本の書店のカバーしてある。本は畠山重篤氏の「牡蠣礼讃」である。この人を知っているかというので、この人が私の本の推薦文を書いた人だと答え、日本に帰ったら「フランスを救った日本の牡蠣」を送ることにした。

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