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メキシコ・バハ・カリフォルニア州JOLLYオイスター養殖場

メキシコの牡蠣養殖事情について、その一から続く。

6.世界の牡蠣について

  • さて、このマーク社長から事前に問い合わせが届いた。世界の牡蠣について全体像を教えてほしいという要望である。
  • マーク社長は勉強家と感じるし、メールでのやり取りからわかるのは、論理性がある人物だということである。そこで、以前に作成した牡蠣の資料から以下の内容をマーク社長に連絡したが、それが下記の内容である。
  • ① 世界の牡蠣分類
  • 牡蠣類は世界中で約200種あまりが知られている。分布域は、南北両極地方を除く、北緯64度から南緯44度までの海の潮間帯から水深50M以上までで、高塩分の外洋域から、極めて低塩分の河口や内域までの、非常に広い範囲にわたって生息している。牡蠣の種類をまとめると以下の表のように分類できる。
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  • ② 世界で食されている主流の牡蠣
  • 上表の中で、世界で主に養殖され食されている牡蠣は大別して二種類ある。ひとつは、フランスをオリジンとする一般的にヨーロッパヒラガキと呼ばれるOstrea Edulisであり、もうひとつは日本をオリジンとする一般的にマガキといわれるCrassostrea Gigasである。現在では、ヨーロッパヒラガキの生産量は少なく、世界的に見てマガキの別名パシフィクオイスターと称されているが、この生産の方が圧倒的に多くなって、多くの国で食べられている。
  • ③ クマモトオイスター
  • この二種を基本として、世界各地域では特色ある牡蠣養殖がおこなわれているが、アメリカ西海岸の特徴としてはマガキの一種である小粒のクマモトオイスター、上図のCrassostrea  AriakensisまたはCrassostrea  sikamea と称するが、これが養殖生産されており、アメリカ東海岸にも運ばれアメリカで大変な人気となっている。だが、このクマモトオイスターは日本市場では主要な牡蠣として食されていない。日本の熊本県有明湾で実際に今でも生息しているが、日本人はあまり食べないので、養殖もごく僅かな量しか生産されていない。
  • その理由としては、日本では牡蠣の市場はむき身が殆どで、むき身牡蠣は調理して食べる関係上、大きめのマガキ・パシフィック牡蠣を好むからである。ところが、アメリカでは異なる。日本の熊本県有明海から1947年に始めてクマモトオイスターがアメリカに輸入されて以降、当初は養殖が難しいため食されていなかったが、多くの関係者の努力によって、今やアメリカで一番人気の牡蠣となっている。その理由は殻付き牡蠣として食べるに手頃な大きさ、つまり、小粒であることからアメリカ市場で成功していることと、その味わいのよさである。
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  • 上図のエンセナダにJOLLYオイスター社がある。また、この会社の養殖場は二か所。その一つSan Quintinサン・クェンティに行き、早速に海辺でクマモトオイスターを食べてみた。世界中の養殖場で海から採ったばかりの牡蠣を食べているが、その中でもJOLLYオイスター社のクマモトオイスターは素晴らしいと感じた。
  • 同社の社長マーク氏が殻を剥いてくれ、匂いを嗅ぎ、口に入れた瞬間「美味い」という言葉が自然にでた。美味さを上手に説明するのは難しいが、この海は塩分が若干強いので、最初は塩味が強いと感じるが、噛んでいるとジワーと旨みが出てきて、最後は円やかな上品な味わいに変化する。このような品の良い味の変化はなかなか見られないものであり、この地のクマモトオイスターは一流といえるだろう。だから、ニューヨークのグランドセントラルオイスターバーに出しても人気となるだろうと思う。

8.オイスターバーの牡蠣との違い

  • 牡蠣は一般的にオイスターバーで食べ、生牡蠣には白ワインが通り相場である。また、牡蠣にはシャブリというのが通説である。このシャブリが通説となった謂れについては、学問的にもシャブリ地区の現場を訪ねて調べたので、次の出版「世界牡蠣面白物語」でジックリ論じたいと思っているが、牡蠣には白ワインが適していることは間違いない。
  • そこでオイスターバーで白ワインとともに牡蠣を食べるが、いつも何か違うような感じが残る。これは問題という意味でない。牡蠣の味もよく、各地の特性が微妙に異なり、絶妙のシャブリであったとしても何か気になるのである。それは何か。どうしてかと思いつつ考え気づいたことがある。それは、オイスターバーの生牡蠣が並んでいるコーナーでは、牡蠣が氷の中に置かれ、同じ温度で管理されているので、牡蠣の味わいはそれぞれ違うが、共通しているのが冷たさが程良くなっているということである。つまり、全部の牡蠣が同じ温度に保たれているという、一つの基準値で牡蠣が提供されているということである。だから、牡蠣それぞれの味は異なるが、食べ終わった後の感覚は一定のティストとなる。
  • ところが、養殖場で食べ続けている牡蠣は、その海そのもので、海水も温度も牡蠣の種類も、その時の天候もすべて異なる。だから、それぞれの味がはっきりと明確に感じられる。そこの土地と海の味わいが濃く表現されている。オイスターバーは海の中にあるのでないから仕方ないし、氷の上におくのは鮮度管理から必要なことだが、養殖場で海の上で食べる牡蠣とは味わいが全く異なる。そのことをSan Quintinサン・クェンティで食べたクマモトオイスターで、再び確認した次第である。

9. JOLLYオイスターのスタッフ

  • さて、San Quintinサン・クェンティの海にボートで出た。実際の牡蠣養殖方法を視察するためである。養殖海域は30haと広い。まだ若いメキシコ人の責任者が案内してくれる。
  • 今回気づいたのは、イギリス人のマーク氏が社長をして、孵化場にもう一人イギリス人のマーク氏がいるが、実際の業務はすべて地元のメキシコ人が行っていることである。これは当然の当たり前のことであるが、課題はその人達の意欲である。業務に対するモチベーションというか協力姿勢の強弱である。
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  • San Quintinサン・クェンティには、メキシコ人従業員が十数名いるが、マーク氏は一人ひとりと話し、抱き合い、笑いあう。お互いの親密さがわかる。JOLLYオイスターには全体で30数名のスタッフがいるという。二人のマーク氏を除いて、すべて現地のメキシコ人で養殖場二か所、孵化場一か所を動かしている。その代表もいえる若い26歳の責任者、そのガイドぶりから、自分は任されているというプライドが感じられる。ボートから体を乗り出して、今にも海に落ちそうとなって、真っ赤な顔して、力いっぱいで牡蠣の詰まったボックスを引き上げてくれ、縄をほどいて牡蠣を見せてくれる。
  • そういう時に本人の気持ちが正直に表にでる。この企業の人々は意欲的で、協力的であると感じるのだ。これは同様の体験を世界各地の養殖場でしていることから分かることである。地元の人々の協力を得るのは、当然の当たり前のことであるが、その中でもJOLLYオイスターのスタッフは頑張っていると方だと思う。

10.牡蠣養殖方法

  • 二階建てのゲストハウスで、長靴を借りて履きかえ、ボートまで海の中を歩く。ひざ下まで海水が来る。干満差は2mという。鷹・オスプレイがいる。そういえば沖縄に配置されるアメリカ軍の新型ヘリコプターはオスプレイという名前だ。
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  • 沖合の養殖ラインにおかれた牡蠣袋の上にはペリカンがたくさん止まっている。
  • さて、JOLLYオイスター社の牡蠣養殖方法は四段階である。
  • 数量は目安であるが、以下の手順で実施されている。
  • ① 稚貝を入れる。これは六週間。5000個ほど。
  • ② 箱へ移す。ここで二カ月。3000個ほど。
  • ③ 次の箱に移す。ここで三カ月。500個ほど。
  • ④ 出荷前の調整としての箱に移す。120個ほど。
  • 合計養殖期間は18カ月から24カ月程度だという。約二年以内で四段階養殖は早いと感じる。早い養殖期間なので、その分手間がかかるので大変だと思うが、四段階にわたって牡蠣の状況を明確に把握できるので、牡蠣の安全性については十分チェック出来ると感じる。
  • では、世界で一般的に行われているのは何段階であろうか。大体、三段階が多い。
  • 例えば、フランスで著名なブルターニュ地方の網式の場合、三段階の養殖方法が採られている。養殖する数量は目安であるが、
  • ① 稚貝を網に入れ一年間おく。約1,000個
  • ② 次に500個にして別の網に入れて一年間。
  • ③ 最後の一年間は200個にする。
  • つまり、三年間で育て出荷するのである。これが多くの海で採用されている養殖方法である。ところが、JOLLYオイスター社の牡蠣養殖方法は四段階と、一段階多いので、当然に養殖管理状態は万全といえるだろう。

11.海域の自然環境

  • 次にボート上で感じた海域の自然環境である。広々として海域の向こうに見える山によって囲まれた湾景観が素晴らしく、海の色はみどり色でもなく、土色でもなく、澄んでいるが海底は見えないという微妙な海、そこにアラスカから冷たい風が来るので、海水は冷たいが、クリーンで栄養が豊富だと感じる。バハ・カリフォルニア州からサンディゴ経由でロスアンゼルスに入ったが、メキシコとは気温が異なる。かなり暖かく青空が多い。
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  • メキシコの太平洋岸がこのように冷たいとは思わなかった。その冷たさが海水に及ぼし、牡蠣にも影響を与えているのだろう。それと、この海では二年以内で牡蠣を市場に出せる大きさに生育するのだから、明らかに海の栄養が豊かなことを示している。加えて、干満の差が波を適度に発生させ、その波が牡蠣のBOXをうまく動かしてくれることも影響していると推測する。しかし、この海の素晴らしさに負けないすごさがマーク氏である。ボートの淵に腰掛けて当方に向かって語る姿、そこには情熱がほとばしっている。これがマーク氏の真骨頂なのだと感銘を受ける。

12. エンセネダの孵化場

  • San Quintinサン・クェンティの海を終えて孵化場へ向かう。エンセネダである。時間がかかり、到着したのは17時過ぎ。もう大分暗い。
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  • ここでは別のイギリス人であるマーク氏に案内してもらう。
  • 孵化場のシステムはイギリス方式だという。六か月間イギリスの孵化場で研修を受けて来て、このメキシコに家族とともに住み、現在の孵化場にするまでに三カ所もトライしてようやく成功したと語るが、その厳しかった過去を感じさせない語り口は、静かでゆっくりで論理的でよくわかる。ここでのシードつくりは、パシフィックオイスターとクマモトとクラムとグイダック。パシフィックとクマモトの生産比率は50対50である。小規模だというが聞くと結構な生産量である。
  • システムは、向こうに見える海から水を取り込み、スルーフローシステムという常に水が動いているもので浄化して、それに栄養分をつくり取り入れ、親牡蠣から産ませた卵からシードに育てるのである。このような孵化場は世界各地で視察したが、それとの比較でいえることは、ここは手づくり感覚だということ。
  • マーク氏の創意工夫がシステムをつくりあげたのだと判断する。
  • そうでなければ、たった六ヶ月の研修経験だけで、これだけの孵化場は出来ないと思う。随分苦労したと思うが、それを感じさせずに淡々と語るマーク氏にも感銘を受けた。
  • 最後に、ここメキシコ・バハ・カリフォルニア州の湾海域は牡蠣養殖に適していると感じる。世界的に見て今後さらに伸びる海であり、新しい可能性を秘めたところだろう。なお、JOLLYオイスター社については、販売方法の現場を視察していないので、改めて機会をつくり訪問し、全体像を世界に紹介したいと思っている。

以上

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